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背中押すハピネス
「天里おねええええちゃああああん……」
双子の妹の朱里が、情けない声で抱き着いてきた。ここは自分達が通う中学校の廊下。あまり人通りの多くないエリアとはいえ、他の生徒たちにも目撃される場所である。
もう十四歳なんだから、あんまり甘えん坊を発揮しないでほしい――そう思いつつも、どこか嬉しい自分がいるのも確かで。結局“今度はどうした”と背中を撫でてしまうあたしである。
「うおーい、今度はどした。悪ガキに虐められたか。テストの点が悪かったか。スポーツテストで撃沈したか。それとも授業中に居眠りしてて先生に叱られたか」
「ちがああああう……!どれもやらかしたけど、今日の一番はそれじゃなああああい……!」
やらかしたんかい、と呆れてしまう。
あたし達は双子だが、二卵性ということもあってかちっとも似ていないのだった。正確には、顔は多少似ているのだが、性格がまるで真逆なのである。
甘えん坊で大人しく、手先が器用で女の子らしい妹の朱里。
それに対して姉のあたしは、産まれてくる性別を間違えたんじゃないかと思うほどガサツで男勝りだ。反面、運動神経でも学校の成績でも、朱里に負けたことはないわけだが。
「もう中二でしょうが、簡単に泣くんじゃないの」
ぽんぽんと彼女の背中を撫でて言うあたし。
「結局のところ、今日はどうした。何かうまくいかないことがあったんだろうなーってのは察したけど。あたしに相談があるんじゃないの?ほら、キリキリ言いな、キリキリと」
「お姉ちゃん冷たい!」
「相談に乗ってあげてるだけ優しいだろうが」
子供の頃からそう。基本的に、運動も勉強も得意でメンタルも強いあたしが、泣き虫な朱里を守る事が多かった。幼稚園、小学校、中学校の今に至るまで。
それが、あたし自身にとっても誇りだったし、義務のようなものだと思っていた。高校はそれぞれ志望校が違うので、今までのようにはいかないかもしれないが。
「……実は、ずっと失敗してるの。去年からやろう、やろうと思ってるのにうまくいかないの」
ちらり、と彼女は窓の外を見る。今日は、傘なしで帰るのは難しいだろう。六月の、しとしととした雨が降り続いているのだから。校庭は巨大なみずたまりと課してしまっているので、あたしの所属する陸上部も部室で筋トレくらいしかできることがないだろう。
「ずっと先延ばしにしちゃってて、でもこのままじゃ駄目だと思ってて」
「だから、何を」
「告白」
そして呆れるあたしに向かって、朱里は爆弾を落としてきたのだった。
「好きな人がいるの。……去年同じクラスだった、西幡くん」
マジか、とあたしはその場でつんのめりそうになったのだった。
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