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『う、うう、おねえちゃん、ありがと……』
あたしが取り返してきたハンカチで涙をふきながら、朱里はいつも言っていたのである。
『私、男の子きらい。男の子こわい。いっつも、ひどいことばっかりする……。しょうらいは、女の子とけっこんするもん。ていうか、おねえちゃんとけっこんするもん……!』
『朱里……しまいじゃ、けっこんできないんだぞ。あたしたち、ふたごだからよけいムリだよ』
『でも、けっこんするんだもん!男の子はいやなんだもん!』
まあ、こんなかんじ。
彼女は男の子のアイドルは大好きだったし、スポーツ選手も男の選手がかっこいいといつも言っていた。だから、別に女の子が恋愛対象だったとか、そういうわけではないのはわかっている。それでも、身近な男が怖い、嫌いという気持ちは拭えなかったようで――あたしとしてはかなり心配していたのだ。
だから。
――好きな人ができた、って言われるの嬉しいっちゃ嬉しいけど。
よりにもよってあいつかあ、とあたしは天を仰いだのだった。
西幡春弥。
去年朱里と同じクラスで、今年はあたしと同じクラスの男子である。よく見るとそれなりにかっこいい顔はしているが、眼鏡をかけているし、大人しいし、取り立てて目立つ生徒ではない。あたし個人はそれなりに話す方だが、朱里が好きそうな“頼りがいのありそうなタイプ”には見えなかった。
「えっと……あんたの趣味に物申すつもりはないけど、なんで?」
とりあえず事情聴取。
気分はすっかり警察官だ。
「西幡ってイイヤツだけど、あんたのタイプなの?あんたが好きな芸能人とかって、背が高くてちょっとマッチョ系だったって記憶してるんだけど」
「うん、私も見た目が凄い好きとか、そういうのじゃないの。でも……なんだろ。やっぱり優しいし……優しいだけじゃないのがいいかなって」
朱里は頬を染めて言った。
「西幡くんとは、去年席が近くなって、同じ班でグループワークとかすることがあってね。みんなで意見まとめて発表するみたいなやつ、総合学習とかであるでしょ?でも、私は意見言うの得意じゃないし、空気読まないようなこと言っちゃったら嫌だなって思って黙ってたの。そしたらね、西幡くんが……それじゃ駄目だよって」
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