背中押すハピネス

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 どんどん小さくなっていく朱里の声。手先は器用なくせに、自分の心に折り合いをつけるのはなんと不器用な奴か。臆病は慎重さの裏返しでもあるし、悪いことばかりではないと知っているけれど。 「じゃあ、こうするのはどう?」  びし!とあたしは窓の外を指さす。 「この雨が上がったら!上がったその日に靴箱に入れる、絶対入れる、何がなんでも入れる!」 「え、えええええええええええ!?そ、そんな急に……」 「急でもなんでもないでしょ、今まで散々先延ばしにしてきたんだから!あんただって踏ん切り付けたいからあたしに相談してきたんでしょ!?」  多分、この様子だと今日にでも入れるつもりで、でも入れられなかったから泣きついてきたというパターンなのだ。  だったら、なんでもいいからリミットをつけるしかない。  この雨は、明後日には止むと天気予報では聞いている。梅雨の合間、綺麗な晴天が広がると。 「雨上がりって、みんな機嫌がよくなるもんだ。虹も出るかもしれない。告白成功率もアップするでしょ。それともなに?まだずるずる引き伸ばして、なーんも伝えられないまま卒業とかになってもいいわけ?」 「よ、良くない、全然良くない!」 「そうでしょうよ」  うううううううううううう、と暫くその場に蹲って頭を抱えた朱里。たっぷり三十秒ほど迷った末、わかったあ、と力なく言ったのだった。 「……雨上がりラブレター作戦、やってみるう……。お姉ちゃん、フラレたら残念アイス奢って」 「馬鹿だね。そこは、成功したらお祝いアイス奢って、でしょ」  まったくこの子は、と私は朱里の額をつんつんと指でつついたのだった。  胸の奥が、きりりと痛む。自分は、これでいい。愛する妹が、あたしが一番信じられると思った男を選んで告白してくれるというのだ。成功してくれたら、これ以上のことはない。だから。 ――散々先延ばしにしてきた、か。ほんと、どのクチが言ってんだか。  後悔なんて、していいはずもないのだ。  例え、片思いの相手と妹が結ばれることになったとしても。
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