Scene.3

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Scene.3

 赤い列車に揺られて、タタン、タタン。  目的地の途中で停まったのは──南太田。 【南太田、南太田。快速列車の通過待ちを致します。発車までしばらくお待ち下さい。】 「ええーっ、またぁ? こないだも、そうだったじゃん」  シートに座っていた小学3年生の女の子が、まだかかとが地に着かない脚をプランプランさせて言った。 「しょうがない、いつもこの時間帯に乗るし。あと脚ブラブラさせないの。お行儀悪い」  その隣で母親が、いつも持ち歩いている文庫本の小説を読みながらぴしゃりと言った。  はぁい、と口を尖らせて女の子は真っ直ぐに膝を揃えて座り直した。  女の子は暇で仕方ない。  停まっている間、近くの高校の生徒たちがぞろぞろと乗り込んできた。  友達同士でお喋りしたり、ひとり黙々とスマホをいじったり、様々な姿。 「おかあさん、スマホ貸して。ゲームやりたい」 「だぁめ。Wi-Fi繋がってないし、音出したら迷惑」  またぴしゃりと言われて、頬を膨らませて女の子が窓の外を見た時、プァン、と快速列車が合図を鳴らして後方から走ってきた。  追い抜きざまに吹き抜けた風が、各停列車の窓ガラスをバンッと打ちつけた。  いたい、と、電車の代わりに女の子は心の中でつぶやいた。 【大変お待たせ致しました、まもなく、発車致します。】  車掌のアナウンスが流れて、電車がアイドリングを始めた。 「次で降りるからね。少し歩いたらすぐ、お父さんの病院だから」 「おとうさん、早く退院出来るといいね」 「うん」  プルルルル。ホームの発車メロディを後に、各停列車はゆっくり進み出した。 …
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