Scene.8

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Scene.8

 赤い列車に揺られて、タタン、タタン。  ──と弘明寺駅から出てくる電車を、踏切の脇から眺めている四人家族。 「ひぃくん、赤い電車来たねぇ」  赤い電車が大好きな3歳の息子に付き合って8歳のねえさんと父が寄り添う所から、母はひとり離れた。  甘いものが食べたいという家族のリクエストを受けて、ちょうど駅前にクレープ屋さんがあったのでその列に並ぶ。 「あっ!!」  という家族たちの叫ぶ声が聞こえたような気がしたけど、電車の車輪の音が大き過ぎたし、ちょうど会計を済ます所だったので、そちらを見れなかった。  お店の人にクレープ4つを渡されて母が戻ってくると、 「ママ、今の見た!? 黄色いのが走ってたよ! 何なのアレ!?」 「ママほんとだよ! ほんとに黄色いの見たんだよ!」 「きーろー」  家族たちが興奮して言ってくるので、「はあ??」と間抜けな声を出してしまった。  んなわけない。空港行きの青い車両はあるけど、黄色なんて。点検車両かなんかじゃないの?  全く信じない母をどうしても説得したくて、父はスマホで黄色い電車を検索した。 「ほらママ! HPに載ってた」  母は目を見張った。  本当に存在した。一週間に1、2回しか走らない、幸せの黄色い電車。見れた人は幸せになれるんだって。 「あー…ママ、残念だったね」 「ママ、どんまい」 「まいまい」  家族のぎこちない同情の言葉にちくしょーめ、とひとつ心の中でつぶやいて、母はスマホの画面をプツリと切って父に返した。そして、 「さあ! 早く川の方へ降りよう! 桜、満開のはずだよ」  片手にクレープ、片手に子供の手を引いて、どこからともなくヒラヒラと桜のはなびらが舞う中を歩いていった。 …
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