第二章 初の檜舞台

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第二章 初の檜舞台

 国会の議場を出るや否や、僕はフラッシュの海に飲み込まれた。無数の光が交錯し、カメラのシャッターは雷鳴のように鳴り響く。記者たちの声は波のように押し寄せ、質問の矢が僕を射抜く。これは、「ぶら下がり取材の洗礼」と呼ばれる、初めての試練だった。僕は一つひとつの質問に、心を込めて、そして慎重に答えていく。 「西園寺さん、総理となるお気持ちは?」 「この責任を背負うことは重大な使命だと感じています」 「日輪の光陰プロジェクトは、派閥を超えた取り組みですか?」 「 はい、派閥を超えて国民全体で取り組むべき重要な改革です」 「日輪の今太閤という称号をどう思われますか?」 「秀吉さんにたとえられるなんて、光栄です」  日輪とは太陽のこと。この改革には光と影もつきまとう。どこから聞いたのかと思われる質問もある。仲間内からは漏れるはずはないのに……。ここは、足の引っ張り合いとなる常在戦場のようだ。 「叩き上げだとお聞きしましたが、政治家に必要なものは何でしょうか?」 「欠かせないのは、伝える言葉だと思います」  政治家にとって、言葉は命だ。綺麗事を言うことよりも、勇気を持って正直に自分の言葉で伝えることが最も重要だと信じている。  前任の総理大臣が、官僚の作った美辞麗句に頼り失敗したことはよく心得ていた。新聞記者からの質問には答えに窮する奇妙なものも含まれていたが、言葉を選び、心を込めて正直に答えた。 「独身とのことですが、この勝利を最初に伝えたいと思ったのは誰ですか?」 「ううん、それは難しい。けれど、母親かなあ……」  本当は、一瞬の間、別の女性の顔が浮かんできた。この場では口にはできなくて、もどかしい気持ちに包まれていた。 「少子化と子育てについて、どのようにお考えですか?」 「これも我々の政権の一丁目一番地となる課題だと考えています」 「選択的夫婦別姓の導入を賛成ですか?」 「この問題は国民の意見が分かれているものですが、僕は別姓の導入に前向きです。多様性を尊重し、個々の選択を尊重するべきだと考えています」  女性の記者らしい質問も飛んで来た。 「もう一度、今の心境をお聞かせください」 「はい、重責に胸が締めつけられる想いです。しかし、僕はこの国の未来のために、全力を尽くすと約束します。身命を賭しても、最後までやり遂げます」 「内閣総理大臣として最初に取り組むことは何ですか? 具体的に教えてください」  ひとりの女性記者が鋭い眼差しで、毎朝新聞の望園舞子と名乗り、物怖じせずに短い言葉で核心を突くように尋ねてきた。その姿勢や言葉が、忘れられないほど、僕の心の中に強く印象に刻まれた。 「まずは、日本の二十二世紀に向ける再活性化プランに力を入れます。東京一極集中の現状を変えるために、大胆な改革を行います。詳細は、近日中に記者会見で発表する予定です。もう少しだけお待ちください」  まだこの段階では、あまり公表はしたくなかったが、話せる内容に限り、彼女の質問にも真剣に答えた。まさか、この時は望園記者と引き続き縁が紡がれるとは少しも思わなかったが……。  記者たちの質問はしばらく続いたが、僕は真摯に答え続けた。この瞬間が、日本の新しい歴史の始まりだと信じているからだ。数日後、僕は皇居での親任式に臨み、正式に内閣総理大臣に任命される。その日を心待ちにしている。  僕自身は日本で生まれ育ち、この国の文化や歴史、美しい景色を愛してやまない。来年は昭和の時代から数えて百年の節目を迎えるが、この一世紀、意見の相違によって未解決の問題が積み重なってきた。  直面している社会的な課題は多岐にわたり、その複雑さは絡み合う糸のようだ。子どもの貧困、ジェンダーの平等、環境問題、情報リテラシーの格差、生産性の低迷、地方の過疎化、災害の激甚化対応、憲法の改正など、解決すべき課題は山積している。  すべての課題が重要であり、優先順位を決めるのは容易ではない。特に、東京の一極集中と少子高齢化は、日本が直面する大きな問題である。過去の政治家はしばしば党派的な論理を優先し、短期的な視点にとらわれることが多かったため、難しい課題は放置されたままだった。  これからは、長期的な視野に立ち、新たな時代を切り開くための光陰の革命を精力的に推進する。次の百年にわたる日本の発展のための計画を策定し、それに基づいて行動する必要がある。理論を超えた実践によって、これらの問題に取り組む。  どんな困難にも立ち向かい、我々の目標達成のために全力を尽くす。僕は、総理大臣の立場から、国民との契約として、ここに未来への約束を宣言する。
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