16日の朝

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16日の朝

 目覚めはすこぶる悪かった。部屋を見渡すと、カバンの中身が散乱しており、机には数学の教科書とノート、英語の教科書と鎮痛剤と水が置いてあった。昨日は何が起きたのか、さっぱりわからなかった。昨日の自分は、何だったのだろうか?ベッドから出て、机の上の数学のノートを開いた。赤文字の「宿題」の下の因数分解の問題は、途中で終わっていた。英語の教科書を開くと、今日の授業内容の部分は何のメモも書き込まれていなかった。  突然、足元が揺れ始めた。 「地震?!」 机につかまっていなければ、立っていられないほどだった。部屋にある物が嵐のように吹き飛んだ。 「キャーー―!助けて―!!!」 揺れは全く鎮まる気配はなかった。グラグラと揺れる世界で目が回り、胃の辺りから突き上げてくるものがあった。口元を押さえ、部屋を飛び出して階下のトイレに駆け込んだ。吐き戻そうとしたが、昨日は何も食べずに寝たので、固形物は出てこなかった。しかし、気持ち悪さはおさまらず、しばらくトイレにこもっていた。 「ねー、大丈夫?」 母にドアをノックされ、ゆらゆらと立ち上がった。トイレのドアを開けると、心配そうな顔をした母が立っていた。 「顔色悪いわよ。今日は学校休んだら?」 「そうしようかな…」 「お医者さんに行こうか?」 「な、なんか、そういうんじゃない気がする…」 「そういうんじゃないって、じゃあ、どういうのなの?」 「わからない…」 二階の部屋に戻って、散らかっているものを片付け始めた。昨日カバンから出したものをしまい、数学の教科書とノート、英語の教科書もしまった。今日の授業内容は、後で誰かにノートを借りればいいと思い、とにかくベッドに横になった。  横になっていても、眠りに落ちることはなかった。目を開けると天井がグルグルと回りだすので、目は閉じたままにしていた。今日は部屋から出るのも難しそうだった。一日寝ていれば、この症状は治まるのだろうか?もしかしたら、明日も続くんじゃないだろうか…  明日は体育の授業がある。タコマリコ(本当は多胡真理子(たごまりこ)先生)が、今週はマット運動と跳箱って言ってたな。生理きてるのに、脚を広げたり回転したりするの、いやだな…見学しようッと。あ、でも、先週の柔道も生理見学だったのに、今週もだったらサボりって思われるかも…  新体操部のコが言ってたっけ。タコマリコは生徒の生理日をチェックしてるって。それって、部員だけなのかな?生理1日目から3日目までは部活休めるけど、それ以上は練習に出なきゃいけないって。先週も今週も生理だったら、絶対無理じゃん! 「いやだー、跳箱なんて!!!」 思わず叫んでいた。  すると、背中のほうが熱くなってきた。じわじわと熱が伝わってきて、背中全体に広がった。 「熱い!!!」 ベッドから起き上がると、鋭く皮膚を焼くような熱さに変わった。 「いやーっ!燃える!!!」 体中を火が這い回っているように熱い。慌てて、両手で体中の火を叩き消そうとした。しかし、火は消えない。激しく皮膚を焦がしてゆく。 「熱いーーーっ!!!」 シャワーを浴びれば火は消える…そう思って、風呂場へ行こうとした。  気づいたのは、病院のベッドの上だった。体の自由がきかないような気がする。右手を上げようとしたが、動かなかった。 「あら、気がついた!!!あなた、昨日、階段から落ちたのよ。一時は意識不明って言われちゃって、本当に心配したんだから」 「火は?火は、消えたの?!」 「昨日も、そんなこと大声で叫んで部屋から飛び出したかと思ったら、階段でものすごい音がして、あなたが倒れてるじゃない!?もう、びっくりしたわよ」
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