願掛けこけし

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 ワンピースの胸にバラの造花を付けた私が登壇すると、温かい拍手が湧き起った。今日は緑島小学校の卒業式だ。私だけの卒業式に、島中の人が集まってくれた。  あの日、二人が教室を去った後、私はお腹の痛みに耐えられずトイレに行き、そして知った。  私が消されることは、もうない。  だから、落ち着いて合理的な判断を下すことにした。二人が無事に南の島へ辿り着く確率は、とても低い。  私はこけし様に願い事を叶えてもらった。  島に来ていた有名な映画監督が私を見て、私を主役に映画を撮りたいと言った。その映画で私は才能を見出され、沢山の賞をもらった。これから私は、世界的な大女優になる。  こけし様は消えた。どこか遠くの、子供のいる島へ移って行ったのだ。  緑島は、再び静かになった。  明日、私は島から東京へ出発する。荷物の中には、ちゃんと日記を入れた。  弟や友達の名前は、今も日記の中に記憶されている。だけどもう、誰の顔も思い出すことができない。  生きることほ、顧みない存在を作り続けてゆくことだと、私はこけし様から教わった。                             了
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