願掛けこけし

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緑島小学校五年 高瀬ひかり  6月3日 月曜日  島にこけし様がやって来て一週間が経った。その間てんやわんやの大騒ぎで、日記どころじゃなかった。だけど六年の秀樹君が「これからは色々なことが変わっていく。注意深く観察して毎日記録した方がいい」と言ったので、今日から忘れず付けようと思う。  まずこの一週間にあったことを書く。先週の月曜の朝、神社の境内に突如として大きなこけしが現れた。高さは2メートルくらい、胴体は一本の太い丸太でできていて、赤や青の絵の具で模様が描かれている。その上の丸い頭には、さっと一筆書きしたような目と鼻に、ぽつんと赤い口が付いている。性別は分からない。大きさ以外は、お土産物で売られているような、普通のこけしだった。  誰がどうやって持って来たのか、誰も知らなかった。たとえ中が空洞だとしても、境内まで二百段もある階段を担いで登らなくてはならない。島には大人と小学生以下の子どもしかいない。こんな悪戯をして喜びそうな暇人はいなかった。さらに動かそうとしたら、びくともしないことが分かった。  神主さんをはじめ、皆が首をひねっているところへ、お菊婆さんが孫に背負われてやって来た。昨晩のこと、お菊婆さんの夢に観音様が現れ、何でも願い事を叶えてくれるありがたいこけし様を遣わすから大切にせよと、お告げがあったと言うのだ。それを聞いた大野のお爺さんが、馬鹿にしたように言った。 「それなら、しこたま饅頭が食いたい」
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