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「ココロさん? 次の方いけます?」
「え、あ。はーい、大丈夫です! どうぞー♡」
ダメだ、仕事中なのに。
ため息をつく私を見たスタッフさんに「どうしたんだ」と声をかけられ、慌てて笑顔を作った。
ファンの年齢とか、性別はバラバラだけど。貴重な時間を割いて私に会いに来てくれるって、この仕事を始めた頃じゃ考えられなかった。名前すら覚えてもらえないような、無名の地下アイドルだったから。
そんなことを考えながら、ひたすらにサインと握手をこなした私は、最後にミニライブと称したステージにも立って。あっという間にイベントは終わった。
「ここのところ、だいぶ増えたんじゃない?」
「…まだまだだよ」
「あらぁ、どうしたのよォ。やけに謙虚ネ」
「だってさぁ」
控え室に戻ると、そこにいたのはマネージャーのシゲルちゃん。
機嫌がよくって、わかりやすいなぁ。今日のお客さんの入りは悪くなかったってこと。
確かに、たくさんの人が来てくれたけど。
『ココロ、その服気に入ってるよね』
『あっ。そうなの〜、お気に入りなの♡』
嘘は言ってない。
でも、その常連さんが言いたかったのは、いつも同じ衣装だよねって意味。
私とシゲルちゃんの会社「たけきのこ企画」に、毎回違う衣装を用意できるほどの予算はない。
もっと有名になって、荒稼ぎ……じゃなかった。言葉の響き悪いな、稼がないと。事務所をやっていくのだって精一杯。このままじゃ、私を育ててくれたおばあちゃんにもう一度喫茶店を開いてあげられない。
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