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「こんにちは、静琉です。あなたは、えぇっと。カノウ、ココロさん?」
「は、はいっ! 叶ココロです、よろしくお願いします」
「「……」」
けれど彼も、挨拶以外はすぐに言葉が出てこなくて。
どうしたらいいかわからなくって、少しの間、沈黙が流れた。
沈黙を破ったのは、タイミングよく戻ってきたスタイリストさん。微妙な空気を察してくれたのか「ココロちゃんは今回静琉くんと一緒にペアを組むことになりました」と伝えてくれた。
「僕と?」
私と組む、と聞いて、こちらに視線をよこした彼と目が合った。
目が合うなり、ジッと私を見つめてきて。そんなに見つめられたら、本当に心臓が破裂してしまう。
自分からは決して目を逸らさない彼を前に、恥ずかしくなった私は先に目を逸らしてしまった。
──こっ、これ以上はちょっと無理!
絶対に顔が赤くなっていると思ったから、私はごまかすように首を横にブンブンと振った。
「すみません、あの。私の顔に何かついてますか?」
「いえ、そうじゃないです。失礼しました──あぁ、今行きます」
スタッフさんに呼ばれた彼とノアさんは、またどこかへ行ってしまった。
先に挨拶してくれた会話上手なノアさんに比べて、彼は静かであまり話さないっていうのは、Dazzlingの動画を見ていたから知っているけれど。
──違う。
本当は知ってる。
将来の夢や好きなことなら、目をキラキラさせながら話してくれる人だって。
ねぇ、そうだったよね?
でもね。
本人を前にして、言えるわけない。私のこと、覚えてますかって。
「……なに期待してたんだろ。私」
思わず天井を見上げた私は、こっそりと呟くとため息をつく。
ため息が泡になって、天井に吸い込まれていくような気がした。
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