Interlude.1 ココロのむかしばなし

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「あ、 開かない……鍵かかってる?」  ちょっとだけピアノが弾ける私は、それが気になって蓋に手をかけた。けれど蓋は開かず、ガタガタと小さな音を立てるだけ。少し身を屈めてピアノを見ると、蓋の少し上に鍵穴があった。 「え〜。鍵ないと開かないよぉ」  私は再び顔を上げ、キョロキョロと周囲を見回した。モノで溢れているこの部屋から鍵を見つけ出すのは難しそうだなって思った。せっかくだから弾きたかったのに。  それでも、ここはなんだかすごく居心地がいい。とても静かで、時折外から聞こえてくる誰かの声も気にならない。窓に打ちつける雨の音だっていい感じ。  秘密の部屋を見つけた私は、すぐに気に入った。  ひとりになりたい時とか、クラブ活動がない日の放課後とか。そこに行っては読書をしたり、ぼうっと窓の外を眺めて過ごすようになった。調子に乗って歌うこともあるけど、それは誰かに見つかったら恥ずかしい。  その日も図書室でわざわざ本を借りてから、音楽準備室へ来た。  古い楽器を押し退けるようにして、窓際の小さなスペースに座り込む。ここなら、万が一誰かが入って来た時も、長いカーテンの裏に隠れれば見つからないし。   「♪〜……」  最初は鼻歌まじりで本のページをめくっていた私は、いつの間にか読書に没頭していた。  いつもなら、外、誰かが廊下を歩く音とか、話し声とか。隣の音楽室の扉が開く音とか。そのぐらいは気にするようにしていたのに。  だから、音楽準備室の引き戸がスルスルと開いたことに気づかなかった。  ──だ、誰か来た?!
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