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声の主が歌っているのは、私の知らない曲。
そうなると、時折入る息継ぎまで上手に思えてくるから不思議。
こっそり歌の練習をしている私よりも、ずっと上手。
気づいた時には私は、カーテンから顔を覗かせ、その歌声に聴き入っていた。
「めちゃくちゃ歌うまい……あ!」
手に持っていた本がドサっと床に落ちる音がして──しまった、と思った。
どうしてこういう時に限って、音が響くんだろう。
私がうっかり漏らした声に気づいたのか、それとも本が床に落ちた音で気づいたのか。自分以外の誰かの気配を感じた声の主が、歌い終わらないうちにピアノを弾く手をピタリと止めた。
──あぁっ?! どうしよう、気づかれちゃった!
ほんの数秒前まで、歌声が響き渡っていたはずなのに、一瞬にして静まり返った。こっちからは、声の主の背中しか見えない。けれど、私にだってわかる。これは絶対、誰かいると振り返ってしまう。
私にできることは、ゴクリと唾を飲み込み、その場で固まることだけ。
「……え。誰?」
この状況なら、誰だってそう言いたくもなるはず。声の主はそう呟くと、ゆっくりと背後を──その先の窓際には、私が固まっているんだけど──振り返った。
「え」
「う、歌。うまいね……?」
声の主と、バッチリ目が合った。
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