Interlude.1 ココロのむかしばなし

8/20

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 彼は、毎週決まった曜日の決まった放課後に音楽準備室に来た。 「ピアノの鍵、この引き出しの奥に入ってるんだよ」 「えー、こんなのわかんないよ。よく見つけたねぇ」 「僕もたまたまだよ」 「そっかぁ」   7月に入って、梅雨明けと夏休みが待ち遠しくなる頃には、私と彼は仲良くなっていた。秘密の部屋で一緒に何かするわけでもなく、好きなことをして過ごしているだけ。でも、私はこの時間が大好きだった。  彼はとても静かだけど、お互い口を開けば絶対に歌の話になる。私も歌が好きっていうことは、すぐにバレた。彼は恥ずかしいから、人前で歌うのは嫌だと言うけど、たまに歌ってくれた。  そういう時「私は空気だと思っていいよ! 」と伝えて、できるだけ邪魔にならないよう黙って歌を聴いていた。 「この前、母さんが入院してさ。歌うと喜ぶから」 「だから歌ってるの?」 「そういうわけじゃないよ。でも他の人に聴かれるのは恥ずかしい。自信ないし」 「えー、なんで? めちゃくちゃ上手だよ! 私、もっと聴きたいと思ったもの!」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加