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ある日のこと。
私が交通安全のお守りを渡すと、彼は不思議そうな顔をした。
「これ、僕に?」
「うん。ほら、この前…」
「でも、それならなんで交通安全のお守りなの」
「え、うーんと。それはそのっ。いいのがなくて」
うん、それはそうだよねって。私も思った。
『母さんが入院してて』
彼はこの前、そんなことを言った。
彼のお母さんが手術すると聞いたのは、それからしばらくしてから。
いつも穏やかな彼がとても不安そうにしている姿を見て、私は励ましてあげたいと思った。だから、学校の帰りに神社に寄って、お守りを探したんだけど──交通安全と安産祈願しかなかった。どっちがいいですかって神主さんに聞いたら、とても困った顔をされたし。でも、安全って入っている方がいいよねって思って、それを選んだ。
「わざわざ行ってくれたんだね」
「てへ♡」
ちょっと手術と違うけど、でも安全って言葉が入ってるでしょ。
そう私が説明すると、彼は「あぁそっか」と頷いた。
「神社行ってお守り買うとか、何か身につけるとか、僕は思いつかなかった」
「私もたまたまだよ?」
「妹を公園連れてった時、ねだられて一緒に四つ葉のクローバーとか探してみたけど、全然なかったし」
「へ〜」
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