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「……あ、時間。僕そろそろ帰らないと」
「うん、じゃあまた」
これから妹と病院に面会に行くんだ、もらったお守りも持っていくよ。
そう言うと彼は座っていたピアノ用の椅子から立ち上がり、ランドセルを掴むと、本棚の向こう側の出口へ向かった。
私がその姿をぼーっと見送っていると、彼は数歩進んだところで足を止め足を止め、こちらを振り返った。
「あのさ……その」
「うん?」
「ありがとう、お守り」
「ふひゃっ!」
──やばい、変な声が出た!
ありがとう、そう言って笑う彼の表情は、とても優しくて、とびきり甘くて──心臓が止まりそうになるぐらい、かっこよくて。磁石で引き寄せられたみたいに、離れたくないと思った。
心臓を撃ち抜かれるって、こういうことを言うんじゃないかなって思った。
彼が帰った後も、ドキドキが収まらない私は胸に手を当て、大きな呼吸を繰り返した。
「お、落ち着くのよココロ! 守りたい、あの笑顔……!」
その日は夜になっても、甘いお菓子をたくさん食べた時みたいな幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。目を閉じても、彼の笑顔がまぶたの裏に焼きついている。
早く来週になって。
一秒でも早く会いたい。
彼と会った最後の日になったなんて、その時の私は想像もしてなかった。
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