Interlude.1 ココロのむかしばなし

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 解散ライブ当日。 「せめてグッズ売上げぐらい回収しないと! 大儲けの第一歩なんだから!」  それなのに、舞台裏はやる気のないスタッフを見たら、誰だってイライラするでしょ。最後の花道だよ? だから私は自らライブ会場前に設置された物販ブースに立って、必死でグッズを売った。ファンの人たちにありがとうって言った。  そして、解散ライブはあっという間に終わった。 「そこの君、うん。君だよ。ココロちゃんだっけ?」 「あ、はいっ。叶ココロで〜す! お疲れさまですっ」  終演後、スタスタと廊下を歩く私は呼び止められて足を止めた。  私に声をかけてきたのは、高そうなスーツを着た大人の男の人。地下アイドルになってからというもの、まず挨拶、これだけは身体が勝手に覚えたから、私は反射的に頭を下げたけれど、なんの用だろう。 「君、自分で事務所作るんだって? まだ15才って聞いたけど、若いのに面白いね。ライブ前もさ、グッズ全部売り切ったんでしょ?」 「え? グッズ? 売りましたけど。事務所?」 「しかもさ、個人事務所ってことは君が社長やるの? いいねいいね! よかったらウチの事務所がサポートしてあげるよ。業務提携ってわかる?」 「しゃ、社長? 私? 業務提携……ちょっとよくわかり──あ、ハイ」  その男の人に名刺を差し出され、私はうっかり受け取ってしまった。  個人事務所を作る? そんなこと言った覚えはないんだが?  何気なく言った「自分で好きなようにやりたい」が広がって、とんでもない方向に……とか?  ──えっと? なんかもう話、進ん…でる?  何かを考える間もなく、話はトントン拍子に進んでいった。  私ひとりじゃ、大人がいないからと。地下アイドル時代、唯一信頼できる大人だったマネージャーのシゲルちゃん(オネェ)が一緒に事務所をやってくれることになった。  会社の名前は「たけきのこ企画」。
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