Interlude.1 ココロのむかしばなし

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 もちろん、いいことばかりじゃない。  アイドルなら、女子なら。やってみたいと思う人気のコスメの特集モデルとか記事とか。  誰だって出たい人気の音楽番組とか。  そういうのはしがらみが多いから、とシゲルちゃんは教えてくれたけど。私にも事務所にも、そういうのに選ばれる人気や力は、まだない。キャスティングのオーディションだって、ほとんど落ちる。だから、舞い込んできた仕事を必死でがんばるしかなかった。  学校と事務所、それから仕事現場に。歌やダンスの練習スタジオ。私は家に帰ると着替えることも忘れ、そのまま床で爆睡することも──その時は、私が倒れていると勘違いしたおばあちゃんの悲鳴で起きた。  うまくいかないこととか、嫌なことがあった日の夜は、私は机の引き出しからを取り出しては、ずっと眺めていた。  何年前になるだろう。  彼にもらった、四つ葉のクローバーとあの手紙。  四つ葉のクローバーはいつまでも持っていられるように、栞にした。  本当はずっと、探していた。  藤崎静琉という、懐かしい彼の名をインターネットで検索した。日本の芸能事務所のタレント一覧をくまなく調べた。  もし彼も、同じ夢を追っているなら、どこかで。  デビューしたり、芸能事務所に所属しているかもしれないと思ったから。  でも、どうしたって彼の名は見つからなかった。
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