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こちらに向かって歩いてくるスタッフさんを目ざとく見つけたエマに、思いっきり足を踏みつけられた私は悲鳴をあげた。
その悲鳴を打ち消すかのように、エマの一際甲高い声が廊下に響き渡る。さっきまでの野太い声はどこに行ったよ?
彼女は売り出し中のアイドルグループの一員。チョコレート色のセミロングの髪はいつもツヤツヤ。斜めに流した前髪からのぞく、くりっとした目。王道の可愛い系アイドルを貫く彼女は、グループでもいつも真ん中。
並んだら、どう見たって「可愛い女の子をいじめる悪役」に見えるのは私のほう。
学校も仕事も、いつどこにいたって、可愛いってチヤホヤされている。
……中身は可愛いとは程遠いのに。
「マネージャー! これどういうこと? 話が違うじゃん! これ着たくなーい」
スタッフさんに挨拶を済ませ、通された部屋に着くと、そこにはエマのマネージャーさんがいた。
私のマネージャーのシゲルちゃんだって、依頼主やスタッフさんへの挨拶とか。送迎も兼ねて現場に着いてきてくれる。でも、シゲルちゃんは必要以上に干渉はしない。私はアイドル・ココロであり、社長でもあるからって。交渉術とか、話術を身につけるいい機会だし。社長・心として、アイドル・ココロを売り込めって。
エマは私とは対照的だ。
いつも、過保護なぐらいマネージャーさんがついている。
「ピンクとかパステル系のルームウェアが着たいって言ったよねぇぇ? わたしのメンバーカラーはピンクなのに、おかしいよねぇ? 外仕事でも、そぉゆうのきちんとしてくださーい!」
首をかしげ、得意の上目遣いでマネージャーさんを見るエマの目は笑ってない。困り果てたマネージャーさんが、スタッフさんを探しに部屋の外へ駆け出していった。
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