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「えっとぉ、この子が色々ワガママ言うからぁ。わたし代わってあげたんですぅ♩」
「はぁ?!」
廊下にエマの甲高い声が響き渡った。
ノアさんと静琉くんがこちらにやって来たから、私やエマも挨拶をするために控え室から廊下に出たけれど、彼女はずっとこんな調子。
私は「いい加減にしなさいよエマ!」って、喉まで出かかった言葉を押さえ込むのに必死だった。笑顔、笑顔! ってわかっているのに。きっと今、私の顔は引きつっている。
それに下手にエマの相手をすると、泣いたフリをされるとか、絶対に私が悪者にされる。ふたりに悪い印象を与えませんように、違うな。どうかどうか、私がそんなこと言うわけないって思ってくれますようにって。私は心の中で焦っていた。
だってこれから、ペアで撮影だし。
静琉くんと撮影なんだから──。
隣に立つエマが、静琉くんに笑いかけるのが見えた。
「だからぁ、わたしと一緒に撮影するのは静琉くんになったので。がんばりましょうねっ」
その言葉を聞いて、私は目の前が真っ暗になった。
そうだった……!
私とエマが衣装を代えるってことは、役割が変わるってこと。
二組のカップルってテーマで、私は静琉くんとペアに──なるはずだった。
エマが静琉くんと、ってことは私はノアさんとのペアに変更ってこと。
──静琉くんとお近づきになるチャンスだったのに……!
なんてツイてないんだろう、私。
エマは静琉くんを急かすように、手を差し出し握手まで求めた。その勢い押されたのか、ここまで黙っていた静琉くんが口を開く。
「あぁ、はい。よろしくお願いします」
彼は表情ひとつ変えず、淡々とそう答えると「ヘアメイクの時間なので」と。スタッフさんに連れられ、どこかへ行ってしまった。
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