20人が本棚に入れています
本棚に追加
/119ページ
「え、は。なんなの……わたしが挨拶してるのにっ!」
得意の上目遣いが通じなかったエマが、口を尖らせて捨て台詞を吐くのを私は見逃さなかった。まだノアさんがいるのに、聞こえたらまずいでしょ…って、なんで私がヒヤヒヤしてるんだろ。
けれど、そんなことで挫けるエマじゃない。もちろん、悪い意味で。
エマは真顔から一転、得意のアイドルスマイルを顔に貼り付けると、スタッフさんと話していたノアさんに近づく。そして、その腕に飛びつく勢いで強引に彼を振り向かせた。
「あーん、本当はノアさんと一緒に撮影したかったな? 残念すぎますぅ」
「え。うん…そう?」
迫り来るエマの相手をするノアさんは、ちょっと迷惑そうに見えた。それでも適当に話を合わせ、しばらく会話を続けていたけれど──ボディタッチを繰り返すエマから距離を置くように、最後は彼女を引き剥した。
「……少し距離置いてもらってもいい? 」
「えぇっ。わたし、何か?」
「オレに触りすぎ。やめたほうがいいよ? 余計なおせっかいだけどね」
「えーっ。ノアさんと仲良くなれたと思ったのにぃ」
「エマちゃんだっけ。キミの舌足らずな感じとか、上目遣いとか。されたら喜ぶ男が大半じゃん? けどさ──じゃあ」
残りの半数の男は、どう感じると思う?
そういう女、死ぬほど萎えるんだよねー。
ノアさんの言葉と冷ややかな視線に、エマが凍りついたのがわかった。
最初のコメントを投稿しよう!