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「お疲れさまでした。お先に失礼します!」
控え室に戻った私は、薄手のコートをサッと羽織ると荷物を掴んだ。
まだ衣装だけど、コートを羽織ればわからないし。
今日はこれからサイン会もあるから、着替えもメイクも落とさずこのまま帰っちゃおう。
帰り際、廊下ですれ違う番組スタッフや関係者に頭を下げると、私は出迎えの車が待つ関係者出入口へ向かった。これからいったん事務所に戻って──えっと、サイン会は何時からだったかな。
「悪くなかったわよォ?」
収録スタジオの出口に停まっていた黒い車。待っていたかのように運転席の窓が開いた。声をかけてきたのは「イカついオネェ」こと私のマネージャーのシゲルちゃん。
私が車に乗り込みシートベルトを締めると、シゲルちゃんはハンドルを握り直す。
「お疲れさま、うさんくさいアイドルも板についてきたじゃナーイ?」
「朝からがんばったと思わんっ?」
「わかってるわよ、問題はアンタに漂う二流感なのよォ」
「くっ……だったら。そろそろ新しい衣装買おうよー」
「悪いけどそんな予算はないのヨ! こうやって出演できるようになっただけでも、まずは進歩って思いましょ」
「へーい。もっとがんばりますぅ〜」
アンタの得意の自己プロデュースとやらで、キラキラの一流アイドルに見せて頂戴な。そう言うとシゲルちゃんは笑った。
仕事はひとつひとつ振り返らないと。だから仕事終わりの車中は毎回、反省会の時間。
6時の早朝出演。それが7時台になれば視聴者数も注目度も桁違い。その「1時間後」に辿り着くまで、あとどのぐらい距離があるんだろう。
信号待ち、ため息をつく私の顔を横目でチラッと見たシゲルちゃんが、なだめるように続ける。
「弱小には弱小の、雑草には雑草のやり方があるの」
「弱小事務所って言うな」
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