Act.1 Love Bubble

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Act.1 Love Bubble

 小さなイベントホールで開催されたミニライブ付きサイン会は、ソールドアウト…とはいかないけれど、おかげさまでそれなりに盛況。  地下アイドル時代は、レンタルスペースの会議室で握手会をやってたことを考えたら「私がんばってるんじゃない?」って褒め称えたくなる。  ブースに入ってくるファンに言葉をかけて、サインをして、握手して、見送って──次! 次の人はどんな人だろう。 「はーい。次の方、おなまえは?」 「わーっ、ココロちゃんだぁ! なまえはイロハ!」  目をキラキラ輝かせている、この女の子は小学生ぐらいかな?  エッセイにサインをして渡すと「ココロちゃんみたいになりたい」と、顔を綻ばせて喜んでくれた。私まで嬉しくなってしまう。可愛い。 「来てくれてありがと♡」 「あっ! あのね。質問があるの……」 「うん、なんだろ?」 「わ、わたしね、学校に好きな男子がいるのっ! はじめて好きになったの!」  ココロちゃんの、この本にね。  初恋はピアノが弾けて、歌が上手な男子って書いてあったから。  うまくいったの?! その男子と両思いになれたの?   「それはねぇ…その男子と私の秘密、かな♡」 「えーっ。そっかぁ、ヒミツかぁ」 「好きな男子と両思いになれるといいね」 「うん! ありがとうココロちゃん、ばいばーい」  サインをして、握手をして、話をして。  たった30秒にも満たないその時間を終えると、女の子は手を振りながら帰っていく。  私はそれを笑顔で見送った。  彼女の初恋が実るといいなと願いながら──昔の自分を重ねて。    私の初恋は、あっけなく終わってしまったから。あの子と同い年ぐらいの時に。
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