3時間まえ

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3時間まえ

「初めまして近藤です」 「初めまして牧田です」  二人はこの日初めて顔を合わせた。  裏サイトのバイトの募集に応募して来たのだ。  借金まみれで出口の無い人生。借金先の怖いおじさんがサイトを教えた。  近藤一平36歳、無職。もともと体が弱くいじめられ体質。背は高いがガリガリ。特に腎臓に問題があり透析まではやっていないが病院は常連。両親も祖父母も健在で兄もいる。頼れる相手はいるのだがいつも家族に馬鹿にされて育ってきたから誰にも相談しないで暴走しては回りに尻拭いをしてもらっていた。今回は女性に貢いでの借金で余計に誰にも言えなかった。  牧田吾朗31歳。無職。窃盗や暴行で何度も逮捕されていた。刑務所から出ても半年もしないうちに犯罪を繰り返すチンピラ。施設育ちで天涯孤独の一匹狼。  一見、明るくて陽気だが短気で怒ると止められない。背は普通だが腕っぷしは強く頑強な体。  その二人がなぜか選ばれ犯罪のタッグを組んだ。  そして今回の仕事は、田舎の金持ちの箪笥預金を家主のいない間に盗んで依頼主に渡す事。  報酬は一人50万円。ただ結果によっては減額される。  もう少し詳しく話すと、今夜一人暮らしの金持ちが孫の誕生日会に呼ばれて家を深夜まで留守にする。その間に家に侵入して仏壇に隠してある500万円くらいの現金をバッグに詰めて、待ち合わせのコンビニで依頼主にバッグごと渡して交換に報酬を受けとる。  コンビニの防犯カメラは壊れていて店の資金の問題もあり修理されていないらしい。  すべて連絡は近藤のスマホにメールで送られてくる。その指示に従うだけ。  近藤も牧田も指示通り、黒色コーデの服を着て、黒いマスクに黒いニット帽。黒い手袋もしていた。靴もいつものではなく量販店の靴を買い、犯行後にすべて捨てる約束になっている。  暗くなってからあるスーパーの駐車場で待ち合わせをしていた二人。近藤の家はこのスーパーの徒歩圏内にあった。牧田は知り合いに借りた軽自動車で来ていた。お互いの衣装で相手がすぐに分かると言われていたが本当にすぐに分かった。  今夜は満月で懐中電灯がなくても明るかった。大きな平屋の家で門の近くに鶏小屋があり、目印になるのが玄関の前にタヌキの置物がある小笠原さんの家を探すのだ。  近藤はナビアプリを使ってた。  田舎でも防犯カメラは多くて、だから行動は歩いてするように指示されていて、家を見つけるのが二人の一番の心配だった。  ただ家は意外と早く分かった。  家そのものが少なく、平屋も少なかった。そして、夜だと言うのになぜか鶏がよく鳴いていて、まるでここです!って呼んでいるようだったからだ。  二人は表札の名前を確認して側の玄関のドアチャイムをついでに鳴らした。  カギは玄関の右の植木鉢の下だとあったがその通りだった。  すべてが順調で、二人の緊張もほぐれてきて雑談を交わしながら入っていった。全くタイプが違うような二人だったが好みの漫画やアニメが同じですぐに打ち解けていた。  仏壇もすぐに分かり、仏壇の裏側の奥の下に巾着袋があり封筒が5つ入っていてそれぞれに百万円ずつきちんと入っているようだった。  それを巾着袋のままバッグに入れて家を出ようとした。 「ちょっと待って」  牧田が近藤を止めた。 「喉が渇いた、冷蔵庫見てみる」  そう言って冷蔵庫を開けて口の開いていた紙パックの牛乳をゴクゴク一気に飲んだ。 「早くしてくれ」  近藤が少し不安になり牧田を急かした。その時、  ガタガタ、  ん?  ガタガタ、  ん?  なんか、玄関の扉が動く音がしたような気がしたが、  二人はそっと台所から玄関の方に歩いて行った。風で玄関の扉が揺れただけだと思っていたが、 「えっ?」 「んっ?」 「あっ!」 「えっーーーーー!!!」 「どろぼうか?」 「にげろーーーーー!!!」  二人は玄関先で仁王立ちしていた小柄な老人にラグビーのタックルのような激しいぶち当たりをかました。  二人でタッグを組んでのぶち当たりは強烈だったみたいで老人はふっ飛んだ。    二人はパニックになっていた。  深夜遅くまで帰らないと聞いていて、完全に気が緩んでいたから余計にパニックになったのだ。  そして、そのまま走り去ろうとした時、近藤が振り返り、これ以上は開くことができないというくらいにまぶたを見開いて老人を指差していた。  吹き飛んだ老人は仰向けに倒れていたが、その頭の下には割れた植木鉢があった。そしてよく見ると後頭部から血がだらだらと流れているように見えた。  もちろん満月とはいえ夜中で暗くはっきりとは見えていなかったと思られるが、二人が老人を殺したと信じるには十分な光景だった。  二人は自首や救急車を呼ぶことも考えたかもしれないが怖くなって結局はその場から逃げ出していた。全力疾走でスーパーの駐車場に戻って行ったのだった。  駐車場に置いてた軽自動車に乗った二人は震えていた。どちらも何も話さなかった。話せば今が現実になりそうで、話して確認したくなかったんだと思う。  依頼主にコンビニで会うのは深夜の0時だ。まだ2時間以上も時間がある。 「死んだかなぁ」  痺れを切らして近藤が喋った。 「人は簡単に死なねぇよ」  念じるように牧田が答えた。 「そうだよね」  隠してた五百万円のお金は退職金の一部で銀行に通うのも面倒な家主がいざと言う時のための資金として一年前からずっと放置していたお金で一年間も点検すらしていなかった。  日が過ぎれば盗まれた日も分からず完全犯罪になっていた。  たぶん、そうなっていた。    二人は後悔に震えていた。  ここのスーパーは駐車場には監視カメラはないけど23時には閉店だし、どこかで時間を潰してから深夜0時頃にコンビニに行くようになっていると近藤が牧田に説明した。 「とりあえず出よう」 「どこゆく?」 「マクドナルド行くか?」 「え?」 「マックの駐車場で食べようよ、なんか俺さぁ、緊張したら腹が減ったんだよね」  牧田は笑ってお腹をさすった。  近藤もつられて笑った。  こんな時に食べられるかって思ったけど、逮捕されたら一生食べられないかもと思うと無性に食べたくなった近藤だった。 「ゆくぞ!」 「うん」  牧田はアクセルを踏んでハンドルを回した。  とりあえずマクドナルドで一番高いセットメニューを頼むことを二人は考えていた。  これが後日わかった二人の行動だった。
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