店内(現在)

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 午後23時59分。  俺は香川秋世、いつもこのコンビニに深夜来ている。  俺は、両親と祖父母と妹の6人家族で山の麓にある実家で暮らしていた。ある台風の日に俺は風が強くてバイト先から家に帰れずバイト先のコンビニで台風が過ぎ去るのを待っていた。  過ぎ去っても、その日の深夜帯のバイトも入れていたので結局俺は家には帰らなかった。  そしたら、午前0時、ちょうど携帯電話の呼び出し音が鳴った。  それが俺以外一家全員死亡の連絡だったんだ。山崩れだった。    しばらくは大丈夫だった。  涙も出なかった。  しかし午前0時になると動悸が激しくなった。パニックになる。一人でいると死にたくなる。  誰かを求めてさ迷うようになった。他人でもいれば少しだけ冷静になれた。  そしてたどり着いたのがこのコンビニだった。  少しずつ分かってきたんだけど、常連には心に傷のある人が多い。それとも親しくなれば話してもらえる心の傷を誰もが持っているってことなのかもしれない。  そんなコンビニに今夜、強盗がやって来た。  俺にとってはある意味、救世主にもなったんだが、それは出来るだけ話したくない。  その強盗犯はどうやら、仲間が来るのを待っていたようだった。  最初は怖かったが、スマホを没収されたがあとは何もされなかった。  よく考えれば一度もお金を要求していない。  そして今日も午前0時が来た。  俺はそっとまぶたを閉じた。  また新しい日が来た。  生きてることさえ無様で、家族の恐怖の瞬間に側にいられなかったことが、助かった喜びより悲しかった。申し訳なかった。  だから、何もしたくなかった。    そんなことを考えていたら、突然静かだった出入り口の扉が開き大勢の人が店内に入ってきた。 「警察だ!」 「人質になっていた人は動かずに」 「そのまま、そのまま」  犯人は暴れるわけでもなく、拳銃もオモチャだったのかと疑うくらい警察には向けず、そっと警察官の中でも一番偉そうな人に手渡していた。  そして、逮捕されることもなく、少し俺たちから離れて口を押さえていろいろ話を続けていた。  何か、おかしい。  そして、あの俺が知らない黒い服装の二人組が逮捕された。  そして、あとの人質になった者たちは軽い聴取をされただけで帰ってもいいと言われた。後日、警察署でもう一度話しは聞かれるみたいだったけど。  数日後、白木警部補から直接の謝罪と説明を受けた。  そう、犯人は警察の人だった。  そしてもっと驚いたのは、白木警部補はあの憧れの常連客のひとり白木可憐さんの父親だった。  そもそもだが、この事件は白木可憐さんが病院に不審な男がいることに気づいて父親に相談したことから始まっていた。  病院に来る老人にいろいろ聞き回り、箪笥預金の仕方とか家のカギの隠し方とか聞いていた。中には幾らお金を隠してるって数字まで言う老人もいて心配していたらしい。  あとで分かったが、主犯は近藤一平だった。そう彼が病院の診察に来ては老人から情報を聞いていたのだ。仲間だった牧田は近藤が金融会社にいった時にたまたま見かけたらしい。その時に牧田の事情も聞いたらしい。そして牧田が怪我をして病院に来た時に個人情報を盗んだようだ。裏サイトは目眩ましで裏サイトに見せ掛けて金融会社が犯罪を持ちかけていて、近藤はそれを知っていた。それを悪用したようだ。牧田も「応募されましたよね」との近藤からのメールをサイトの仕事と信じ込んだようだ。  そして何より、事件当日は最初からあの白木警部補は尾行していたようで、あの小笠原さんという老人もすぐに救急車で運ばれて軽い裂傷で済んでいた。    そして最大の疑問。  なぜ?、強盗と監禁?  近藤は最初から牧田は使えるだけ使って殺す予定だったようだ。家族もいなくて一匹狼の存在の牧田は近藤にとっては格好の餌食だったようだ。  殺人?を起こして不安になった近藤はコンビニを早めに出て依頼人の指示と言って牧田に山の奥まで運転させる予定だったようだ。そして隠し持っていたナイフで殺して山に埋めるつもりだったようだ。  白木警部補が最後まで確信を持てなかったのが近藤が主犯だと思うが万が一他に主犯各がいたらという不安だったようで、それでコンビニで午前0時まで待ち他に仲間がいないか確かめたかったようだ。それに娘さんの頼みと言うことで一人で調べていたので仲間を呼んで駆けつける時間も欲しかったようだ。一人で二人の逮捕は危険だと判断して。  もう一つ、二人をコンビニに足止めして、近藤が牧田を殺すチャンスも与えないためでもあったようだ。  本人が言っていたが、警察と言っても誰も従わない時代なんだって。拳銃持った強盗なら誰でも素直になるでしょ?だって。  ただ、人質の中に娘さんがいたことは予定外で二人ともかなり戸惑ったらしい。  そして、あの監禁していた間に客や店主は無関係で犯人と接点はないと判断したようだった。    ただ、それにしても大問題で即クビになる事をした白木警部補だが始末書だけですんだのは、店主をはじめ人質になった俺たちが口裏を合わせて、あれは犯人を逮捕するため足止め用のお芝居だったと証言したから。娘さんがいた事でその話が説得力を持ったようだ。  今夜も少し早めの時間にコンビニに来た。  白木可憐さんがいた。  あれからは会えば少しだけ、話しをするようになった。  少し、午前0時が怖くなくなってきているようにも思う。  俺も少しずつ、変わってきているのかもしれない。 終わり。
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