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秀哉には確実に証明できるアリバイもあった。
「前に食事したとかは置いとくとして。昨日はちゃんと、10時からは寝てましたよ」
それには大木が、また難癖付ける。
「身内の証言は信用できませんな」
「あなたにはアリバイがあるとでも。こっちは時間も記録された映像を公開してますから」
「なにそれ」
紗月が詳しく訊きたいように、秀哉の顔を覗く。
「いや。あれだ。酒を飲んでるときにビデオも撮ってたんだ」
誤魔化すしかない秀哉。
(酔ったせいか、いたずら心で、紗月の寝顔を撮影してショートビデオへアップしたんだが。まずいなー)
普通に女性は怒るだろう。秀哉もバレたときは別れ話にも発展しかねないと予想していた。
「観たいものだな」
大木は秀哉が見せるのに戸惑っているのを見抜いたように強気だ。
まあまあ、と宥める刑事。
「捜査もいまからです。後ほど詳しくお尋ねするかもしれません」
考えれば起きたての事件だ。澄玲が紗月へ電話するまでに、大木は警察へ何か話したのではないかと、疑ってしまう展開だ。
「なるほどね」
紗月が分かったように笑顔になる。不謹慎だけれど、疑われてだっまている女性ではない。
「絵の具が決め手のつもりね。盗難届けは、調べもしないで、冤罪を作るつもりかしら」
密室だから、と教室内を丁寧には調べてないらしい。
「書かれた文字の分析をしないと分かりません。これからです」
刑事は調べている途中の進行などは話せないといいながら伝えた。
秀哉も、大木が何か企んでいることは知っていると伝えたい。
「まだ操作が始まってもいないのだ。大木さんおかしくないか」
「素人でも予想できることだ。浮気をして、金銭的なことで、仲がこじれたんだろう」
大木は、そのような筋書きを考えているらしい。ここは刑事も確かでない噂は流されたくないようだ。
「捜査はゆっくり確実に行います。関係者の方々には冷静な対応をお願いしたいですな」
そういうと2枚の名詞を出す。やはり大木とは話もしていたらしい。紗月と秀哉へ名詞を渡す。
「津川省太です。話したいことがあれば、いつでも待っているから、無茶はしないように」
自首しなさい、とも解釈できる。紗月は挑戦的な態度で向かう。
「いいわよ! 教室に行って指紋採集するから」
「捜査上の秘密だよ」
秀哉は囁いて注意した。指紋を採集するのは素人でもできる。それでも、密室ではなかったか。
「お好きなように。ほかに何かやるおつもりですかな」
大木が、詳しく訊きたい様子。
さすがに紗月も内緒だと気づいたらしい。
「これから捜査するでしょ。その中に同じ指紋があるはず」
まともな答えだけれど、もっと積極的にやるのが二人のやりかた。
秀哉と紗月は野次馬の集まる玄関から、いかにも悲しそうな表情で外へでた。
「指紋採集道具は準備してるから」
紗月がトートバックを前に出すようにして言う。
「髪の毛が落ちてるかもしれない」
髪の毛が決め手になる推理小説も読んでいた秀哉。テレビドラマや小説を参考に。あれこれ試せば、どれかで手がかりをみつけられるはずだ。
軽自動車に乗り、水彩画教室へ走らせた。だけれど、この話を大木は聞いていたはず。悪だくみしている、と疑っている相手に教えていいのか、うん、やはり二人は素人探偵だ。
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