(隠し黒の水彩画) 黒い絵の具は見たのか殺人事件 

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  紗月の使う机は後方の端っこ。トイレが近くにある。 「あそこの隙間は」  秀哉はトイレの隣に空洞があるのを見つけた。紗月には当然のことらしい。 「物置。階段の下になってるから」 「脚立とかを収めてるけど。あまり意識してないよね」  何者かが隠れるなら、物置だろう。二人は恐る恐る近づき、中へ入る。キャンパスもあるけれど、脚立が広げて置かれていた。湿ったような息苦しさを感じる。 「普通は閉じて、立てかけるだろ」  秀哉は拡大鏡のライトで周囲を照らす。 「天井。開いてるじゃん」  紗月が発見したように驚く。天井へ入る場所が、そのまま開いていた。 「もしかして」  秀哉は脚立から上り、天井の中を調べる。定期的にまかれる殺虫剤の匂いなのか、鼻にきつい。 「続いてる。階段の下で繋がってるぜ、ジムと」  やはり大木が怪しい。 「でも。なぜ。そんなに恨まれることはしてない」  紗月には心当たりもないようだ。絵の具を一個だけ盗むにしては大袈裟だ。  密室の謎は解けた。天井への板が取り外されたのは、悪意も感じられる。 「これは、あの刑事さんにも教えよう」 「きゃっ!」  紗月の悲鳴とともに、後ろから追い被さるトレーニング姿。 「何を!」  脚立の上から相手へ飛び掛かろうとする秀哉。誰かが脚立を揺らせて、バランスを取るのがやっとだ。 「誰だ」  下を見た。髪を振り乱して必死な形相の澄玲がいた。トレーニング姿だ。スポーツジムで着替えてきたのだろう。それで、天井から伝ってきたようだ。 「邪魔しないで」  澄玲は手にしたビニール袋を、秀哉の顔へ振り回すと、脚立から降りられないようにした。 「グルだな」  思い切り相手へ足蹴りして飛び降りた。女性だから、と遠慮する場合ではない。 「この女がどうなっても良いのか」  大木の声だ。紗月を襲ったのは大木だろう。紗月の腕を後ろへ捻り、右手に木槌を持って、紗月の頭を狙っている。  これは動けない。のんびりしすぎて先を越されてしまったのだ。大丈夫か大学生迷探偵コンビは。
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