(隠し黒の水彩画) 黒い絵の具は見たのか殺人事件 

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 ごんっ、ころころ。教室で何かが落ちて転がる音。振り返る澄玲。黒い髪が広がり、白い煙が立ち込める。煙の元が物置へ入ったのか煙幕が白く広がる。 「この野郎」  隙がある、秀哉は大木が木槌を持っていたあたりを両手で掴んだけれど、空振り。それでも、紗月の身体を抱きかかえる形になっていて、そのまま外へ走る。息を止めて、躓きながら煙から逃れる。 「大丈夫」 紗月も態勢を立て直したのか、声を掛けた。  いくつかの足音が近くまできているのに気づいた。トイレのドアが開いたままだけれど、大木と澄玲が潜んでいたのだろう。 「やだっ」  澄玲が叫び、煙から飛び出すと、トイレへ逃げ込んだ。 「おいっ」  教室に入ってきた男の一人が、トイレの前まで追いかけていたけれど、ドアが閉まって、鍵のかかる音が響く。 「刑事さんたちか」  秀哉は津川が居るのに気づく。 「あと一人。男が」  物置を囲む7人の刑事へ声をかけて、紗月のようすをうかがう。 「擦りむいたか?」  膝を摩っている紗月。それでも、笑顔を作る。 「助かったね。ありがとう」 「これで、解決か。いや、動機を聞かなければ」  それでも今は、愛しき恋人を労わる方が先だ。 煙幕が晴れるのを待つ刑事たち。天井のことを教えなければ。 「天井が隣のジムとつながっていた。逃げたんじゃ」  そのとき、板がきしむ音。天井が破れたのだろう。 「あわわっ」  大木の騒ぐ声がして、脚立が倒れたらしい。 「怪我は。突入しますか」  刑事たちは人命救助が優先で、話し合う。そこへ脚立が現れる。大木が脚立を振り回していた。煙のなかで止めているはずの息が続くのはスポーツをしていたせいか。 「どけっ。痛っ」 机にぶつかり倒れ込む。すかざす取り押さえる刑事たち。  紗月は立ち上がる。秀哉も横に並ぶ。この事件の真相を知る権利があるのだ。 「なぜ。私に罪を被せたの」  大木へ問う紗月。津川はようすを見るように、仲間へ合図した。 「おれは、澄玲さんを助けたかったんだ。あの男から」 「先生は何かわるいことをしてたとか」 「澄玲さんと婚約してから暴力で傷つけていたらしい。証拠もある」  刑事たちも驚きを隠せないらしい。 「そうだん。そうかそれで、きみに相談したと」  津川は言葉を選んだように話す。公の相談窓口へ行ける精神状態でもないのが暴力を受けた側。それでも、身近な人間には打ち明ける。  紗月はなにかを聞きたいらしい。 「先生におかしいところはなかった?」 「しらない。本当は、挨拶程度の関係だ」 「ただの暴力男か。どうかなー」  紗月の気がかりに秀哉も気づく。 「違法薬物とか」 「それはない!」  大木が断定する。挨拶するぐらいの中で分かるのか疑問だ。 紗月が秀哉に手でトイレを指さして合図する。澄玲なら詳しく分かるはず。いまは立てこもり沈黙を守っていた。刑事たちも相手が落ち着くまで待とうという作戦らしい。  いよいよ大学生探偵が黒い絵の具の謎を解決するのか。紗月が知りたいのは『水彩画で隠し黒の描き方』だと気づいた秀哉。最終決着へとトイレの前へ歩いて行った。
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