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紗月はちょっと考えてから声をかける。
「黒い絵の具を盗んだ理由は分かりました。ただ隠し黒で描く水彩画の秘密を。知ってるでしょ、澄玲さん」
「生徒に罪を。気づいたのね。あの絵は薬のせいよ」
「言うな!」
大木が叫ぶ。
「もう、良いのよ!」
叫ぶ澄玲。トイレのドアが開いた。
「サツジンの主犯は私です。大木さんは無理に手伝わせただけ」
覚悟を決めたらしい。それに津川はうなづいてから言う。
「山下さんは意識が戻りましたよ」
「なんだってぇ!」
刑事たちをのぞく4人が同時に驚く。
「脳震盪でした。のーしんとう」
津川の言葉に力が抜けるのは、何人いるのかわからない。
「シネばいいんだ」
大木が喋る。
「澄玲さんにも無理やり。あの男が罪に問われるべきだ」
「当然。家探しもしました。寝室も調べましたよ」
津川に澄玲が安心したように深いため息を吐く。
「はい。いつも寝室で。覚せい剤を一緒にしないと殴るとかされて」
「犯さなくていい罪を」
津川がつらそうに首を振る。これで事件は発覚から半日も経たないうちに解決した。
賃貸の水彩画教室。賃貸の店などは不動産会社に予備のカギはある。刑事たちは借りてきたらしい。スコープで、ようすをうかがっていたのだ。とうぜん尾行していたのだろう。
秀哉と紗月は、ころあいを見て外へ出た。あとひとつ気がかりがある秀哉。
「あのさ。ちょっと謝らなければ」
寝顔のビデオを正直に謝りたい。
「削除したから、朝のうちで」
さすが名探偵を気取る女性。
「あっ。一緒に作ってたんだ」
ショートビデオのアカウントは共同のもの。秀哉が酒のせいか、間抜けなのか。秘密は作れない二人らしいけれど、紗月にリードされているのだろう。
それでも、紗月の頬が濡れているのに気づいた秀哉。ハンカチをだそうとしたけれどやめた。
水彩画の隠し黒は幻か。それでも作品は存在する。芸術作品は、理性と狂気の狭間にもあるのだろう。
了
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