漆黒の旅路

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 名前は山中真(やまなかまこと)。  僕という世界はこの世に生を受けた時から真っ暗だった…………。原因は生まれつきの眼の病気により、目は全く見えない。 「残念ですが、真(まこと)くんの視力は、今の日本の医療技術では治す事は不可能です…………」  医師は言った。まるで他人事のように、患者に対して残酷な診察結果を伝える事を慣れているかのに。  診察室にて、両親は崩れ落ちるように泣いていた。 「あうっ…………?あうっ…………?」  母親に抱き抱えられた一方の僕、その時は赤ん坊であった為、状況が理解できないまま。結果とは皮肉にも愛らしい笑みを浮かべている。 「まこと、こっちよっ」 ────年月は流れ、僕は懸命に生きていた。医師からは余命半年を宣告されたが、見事に裏切った。ハイハイ移動の際、呼び掛ける父や母とは裏腹に、物心がついていない為か、逆の方向に移動して壁やベランダのガラス戸にゴンっと当たって泣いてしまう事もしばしばだ。  危険なので、ふすまやガラス戸や玄関等には柵を設置している。  それから…………医師の余命も裏切り、年齢は5歳。特別支援幼稚園の児童になった。 「せんせ、トイレいきたい」  まことは言った。 ───先生に手と手を繋ぎ、排泄行為を引率してもらう中、まことの中に好奇心が湧いた。ここはどんなところ?みんなやせんせ、おとうさんやおかあさんはどんなひと?。  目が見えないまことにとって、それは新鮮な気持ちとなった。  そんなある日…………。  おとうさんとおかあさんと一緒に、近所の動物園に行った。おとうさんとおかあさんに手を繋いでもらい、園内を回る。 「おとうさん、あれは?」と、僕は鳴き声のする動物に指を差す。 「あれはぞうさんだ。鼻が長くて大きい動物で、怒ったらとても恐いんだぞ?」 「おかあさんみたいだね?」 「ははは、そうだね」 「アナタ?」 「冗談だよ、良子(りょうこ)…………」と、おとうさんの冗談に、ちょっと怒るおかあさん。 「じゃあれは?」と、隣の動物の檻に。 「あれは、ライオンだよ。子供と母親をとても大事にする強い動物なんだ」 「ライオンは、おとうさんみたい…………だって強いから」 「おとうさんライオンだけではないぞ、おかあさんライオンも、とっても強いぞ。子供達の為に、危険も省みずにご飯を取ってくるとかね…………」  おとうさんは言った。 ────それから、3人で色々な動物を見て回った。大きい動物、小さな動物、いい匂いがしたりくさい匂いがしたり、とても新鮮で楽しかった。  帰りの車の中、僕は言った。 「おとうさん、おかあさん。僕は大きくなったら、色んな場所を見てみたい」 「そうか、そうか。夢を持つ事は良い事だ、お前ならきっとできる。最近はお前のようにハンデを抱えている人達が助け合える時代になりつつある。お前が大きくなった頃にはもっと良い時代になっているぞ…………」  おとうさんは言った。 「それで、僕の目を治して、おとうさんとおかあさんを見てみたい」  まことの言葉に、おとうさんとおかあさんは(そうだな)と、何かを思い出したかのように笑っている。僕には雰囲気で分かる、とても悲しい感じだった。 ────それから…………カレンダーはパラパラと落ち、9年後。年齢は14歳、両親の事がちょっと鬱陶しくなり、多感な年頃だ。学校は特別支援の中学校の学生、歩調杖を片手に、運転手の介助によりバスから降ろしてもらい、僕は帰宅した。  僕の世界?言うまでもないだろう、相変わらず漆黒だ。 「ただいま」 「えっ?本当ですか?」  僕が扉を開いたら、おふくろの声が爆発したかのように響き渡る。 「まことっ!!」  帰宅した俺に、おふくろはドカドカと駆けてきた。 「なに?」 「なに。じゃない、アンタの目が治せるかもしれないんだよっ!!」  おふくろは言った。何やら病院から、俺の治療の提案の連絡だった。内容は簡単に説明したら、その治療はアメリカ合衆国で実施する手術だ。アメリカの医療技術は、日本より進んでいるらしい。  この提案は、親父にもした。 「行こう真(まこと)っ」  リビングにて家族会議。 「けど、アメリカの治療。お金がいくら掛かるか分からないし、親父とおふくろには、俺のせいでこれまでお金掛っているし…………」  俺の言葉に、親父は俺の肩に片手をポンっと置いて。 「そんなこと、気にするな。お前、でかくなったら、色んな場所を見てみたいんだろう?俺と母さんは、お前が夢を叶えるのが、夢なんだよっ…………」  漆黒の視界の中、親父とおふくろが泣いている声が分かる。 ───そして…………俺と親父、おふくろはアメリカに飛び立つのである。産まれて初めての飛行機に外国、不安だけがのし掛かる。  機内にて、俺は言う。 「父さん、母さん…………俺、怖い」 「大丈夫だ、父さんと母さんが付いている。それとな、コレ…………」  親父は俺に(何か)を渡した。感触で分かる、紐付きの小さい御守りだった。 「それはな、俺が母さんにプロポーズする時に持って挑んだ御守りだ。あの時の母さんは、学校では1・2を争うほど可愛くてな、それを持って挑んだら、見事に成功した」 「そうだったの隆文(たかふみ)君?」 「そうなんだよ、びっくりしただろ?」  その後、親父とおふくろの甘酸っぱい思い出話が繰り広げられる。 ────アメリカの病院に到着した俺と両親。俺はカートタイプの医療ストレッチャーに横になり、手術室に向かう。ちなみに俺が着用している患者服のポケットに、あの御守りが入っている。  1時間、2時間、3時間、4時間、5時間…………手術の時間が過ぎていく。 (どうか息子を…………夢を叶えさせてくれ…………)  手術室の前にあるベンチにて、隆文(たかふみ)な祈る。 ───そして、オペ中のランプが消え、手術が終わった。同時に白人の執刀医がマスクを剥がし、険しい表現を見せる…………。  半年後…………今日は9月18日、俺の誕生日だった。 「父さん、母さん。やっぱり、怖いよ…………」  俺は言った。 「何を言っているだ?もう、手術は終わったんだぞ」 「それに、あの先生からは経過観察の為、半年の間は包帯を取らないでって言ってたわ。何だか運命みたいね、アンタの誕生日がその半年後の日なんて…………」  親父とおふくろは言った。 「じゃ…………包帯を取るよ?」  俺は、両目を巻いている包帯を、少し震える手で取るのである…………。しかし、怖い為、目は閉じてしまう俺。 「大丈夫…………。さ、目を開けて、真(まこと、)…………」  両親の声に、俺は少し落ち着きながら瞳を開いていく…………。  そして、今まで漆黒に包まれた暗闇の真ん中に、光が灯し、それが広がっていく…………。 「父さん、母さん…………」  俺の視界に、景色が映し出された。目の前にいるのは父さん、母さん。そして、テーブルに置いてあるのは15歳の誕生日のケーキと豪華な料理だった。 「誕生日おめでとう。そして初めまして、私達が、お前の両親だ」 「…………うんっ」  俺は、瞳から大粒の涙が零れ落ちた…………。手術は大成功、真(まこと)にとって暗くて長くて険しい、旅路が今終わった…………。  10年後、25歳となった真(まこと)。  それから僕は、海外のとある大通りを歩いていた。目が見えない頃から興味が湧いた悲願の海外旅行。その欲求が爆発した形となった………。小さい頃は味わえなかった、違う景色、空気、人達。あと、その国の文化や伝統、宗教、どれも味わえなかったので、新鮮か気持ちだ。 ───僕は、とある国のビーチにいた。時刻は夕方頃、朱色の空に沈みゆく夕陽が砂浜を、海辺を照らし、キラキラとした景色はまるで宝石。   「人生は、素晴らしいっ!!」  俺は両手を広げ、思い切り叫んだ。  
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