孤城の柘榴石

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「それで、僕はここでどんな仕事をしたら良いのでしょうか」 「あなたにはお嬢様のお世話をと屋敷の掃除をお願いしたいのです。」 「お嬢様のお世話を、僕がですか?」 「はい。これまでお嬢様のお世話をしていた者が急遽病気になり里へ帰ったのです。これからあなたにはその者の代わりとして働いてもらいます」 「・・・わかりました」 「この屋敷には私と先ほどの中年の男しかおらず、私たちだけで屋敷のことはほとんどやっています」 「なぜそんなに人が少ないのですか?」  僕の問いに紫苑さんは軽くため息をついて答えた。 「お嬢様は災いをもたらす存在として疎まれる存在です。そんな方に旦那様たちが必要以上のことをなさるはずが無いでしょう。私たちも必要以上にお嬢様と関わらないよう言われております」  言われてみればそうかと僕は妙に納得してしまったが、他人との関わりが必要最低限しかないのなら彼女の孤独感は計り知れない。  紫苑さんはそれから僕を連れて屋敷の中を案内をしながら仕事について説明してくれた。  この屋敷には図書室があり、僕も自由に出入りして良いそうだ。  読書が好きな僕としては非常にありがたい。  最後に紫苑さんは僕の自室の隣の部屋をノックした。   「どうぞ」  中から女性のか細い声が聞こえてきた。 「お嬢様、失礼します」  紫苑さんと僕はその部屋に入り、お嬢様と対面した。  彼女を一目見た時、僕は思わずハッと息を呑んだ。  紫苑さんの言う通り彼女は長くまっすぐに伸びた金髪と紅く染まった瞳をもっている。  そしてその瞳は憂いを宿し、彼女自身はどこか儚さをまとっている。  しかし大きな瞳にすっと通った鼻筋、そしてぷっくりとした厚い唇をもつ、整った顔立ちの少女だった。    彼女は窓際の椅子に腰掛け、本を読んでいたらしい。 「あら、紫苑。その方は?」  お嬢様は僕を不思議そうに見る。 「この者は今日からお嬢様の身の回りのお世話をする者で、センリと言います。何かあればこの者にお申し付けください。そしてこの方がミチルお嬢様です」  紫苑さんに紹介されたミチルお嬢様は僕に軽く会釈をした。
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