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死神は追い出された
鉄格子付きの窓の外は、見下ろす限りすっかり春の陽気が強まっていて。
占い以外に何の取り柄も無い私……シャーリィ・メルワドールは17歳を迎えていた。
メルワドール家は、代々このレイン王国に付き従ってきた魔女の血を引く家系。
歴代の当主達は薬草学や魔法といった各々の得意とする分野で王国の発展を隣りで支えてきた『魔女の血統』である。
しかし私は扱える魔法が少なく、魔法力も姉達には遠く及ばなかった為、母が病死してからは家には常に居場所が無かった。
そんな私に、母は死ぬ前に占いをくれた。
机に置かれた6枚のタロットカードを1つ1つ表にしていき、その結果を細かく丁寧に文にして依頼主の名前の書かれた封筒へと入れる。
自分で言うのも差し出がましいが、私の占いは当たる。
現在の客層が隣国の国王や妃、更には名の有る貴族達にも及んでいるのがその証拠だ。
もっとも、この占いを行っているのは私の姉という事になっていて、私の存在は伏せられている。
私は妾の娘で。
優秀である筈のメルワドール家には相応しくない無能な恥さらしだから。
……それでも、生きれるなら影でも良かった。
何の後ろ楯も権力も持たない私は、いつ売られてもおかしくなかった。
母が残した形見を使って、小賢しく生き続けた。
生きる為に、私は影に徹した。
私は全ての封筒に手紙を入れ終え、タロットカードを仕舞った。
これが最後の占いだ。
今日、私は。
軟禁同然だった屋敷の、椅子とテーブルと毛布以外何も無いこの部屋を出て行く。
丁度、屋敷の入口辺りに帆馬車がやって来たのが見えた。
何処かの中年の貴族に嫁がされるらしいが、早い話が役目を終えた私の厄介払いだろう。
全てが私の占いの成果であると自負はしていないし、自惚れているワケではないのだが。
私が影に徹した翌年から。
メルワドール家は独自の人脈を築き上げ、今やレイン王国内で最高位の力を持つ四大貴族にまで僅か数年でのし上がったらしい。
勿論、私には関係が無いし、生活も変化する事はとうとう無かった。
ひょっとしたら私の方が、占いに付いた付加価値なのかも知れないと錯覚して、憐れんでみたり。
「──最後に、私自身の未来を占ってみましょうか」
私は。
取り出したタロットカードの束を軽くカットして。
一番上を捲って表にした。
現れたのは。
「『死神』の正位置ですか……」
傷んだ黒髪をそのままに、私は部屋を出て行った。
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