二人きりの暮らし

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喉元を駆け上ってくる感情は、多分、絶望に近いものだった。茉優はこの生活を終わらせたがっている。俺がどんなに努力しても、この現状は変えられない。突き付けられた銃口に息を呑む思いだった。でも、──もうそれ以外の選択肢はないように思えた。 「わたしが結婚できるのは十六才なんだって。もし、はなればなれになったら、わたしのおたんじょうびにどこかで会おうよ。十六才は大人だもん。好きなところに行けるでしょ。そしたら、結婚しようよ。ずっと二人でくらすの。ずっとずっと、二人で」 深く考えず、俺は昔見たある写真を思い出していた。 「⋯東京タワー。マユちゃんの誕生日に、東京タワーで会おう」 でも、と一旦区切り、 「まだあきらめたくないんだ。マユちゃんとの生活をあきらめたくない。なんとか考えてがんばるから、大人の人に話すのは待ってよ」 遺体さえ片付けられたら、どうにでもなる気がした。とにかく穴を掘るんだ。どこかに大人ひとり分の穴を。 「マユちゃん、大好きだよ」 俺は恥ずかしさも照れもなく、真剣に言った。 「わたしも、マヤくんが大好きだよ」 茉優は、鳥がついばむようなキスを一度くれた。それがどれほどうれしかったか。どれほどパワーをもらったか。伝えたかった。この気持ちが真実であると伝えたかった。
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