友だちはドキドキするものらしい

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 弁当を食べ終わり、ごちそうさまと手を合わせ、本日二本目の水のペットボトルを開封する。水分はこまめに摂るといいと翠に教わって以来、すっかり習慣になっている。 「希色、これ一緒に食わない?」 「なに?」 「チョコのお菓子。今朝コンビニで買った。これ好き?」 「う……好き」 「じゃあ半分こな」 「え、ちょっとでいいよ」 「希色と食べようと思って買ってきたからいいんだよ。はい」 「ええ、ほんと? じゃあ、いただきます」  希色のほうに椅子ごと寄ってきて、桃真がお菓子を差し出してくる。プレッツェルにチョコレートがかかったお菓子だ。半分ももらうなんて、と気後れするが、桃真はこうなったら譲らないことを希色はもう知っている。肌や体形維持のために甘いものは食べすぎないように気をつけているのだが、桃真が誘ってくれると断りたくなくて。希色の貴重なお菓子タイムは、今やすっかり桃真とのものになっている。 「明日はオレが買ってくるよ。どんなのがいい?」 「甘いのはなんでも好き」 「特に好きなのは?」 「んー……希色が選ぶヤツならマジでなんでも」 「はは、なにそれ」 「だってマジだし。あ、希色、最後の一本だぞ。ほら、口開けろ」 「え、いやそれは桃真が……」 「いいから、ほら」 「ええ、あー……」  戸惑いつつも、言われるがままに口を開ける。桃真が買ってきたのだから、最後の一本は自分で食べればいいのに。それに、推しにあーんなんてされるこっちの身にもなってほしい。  ぎこちない動きで咀嚼していると、いつの間にか川合と佐々木がこちらをじいっと見ていることに気づく。 「なんつうか、お前らほんと仲良しな」 「な。割と見慣れてきたけど」 「このクラスになって一ヶ月しか経ってないのにな」 「たった一ヶ月で見慣れるくらい、毎日こんなってことか」  ふたりの会話に、希色は目を丸くする。 「いや、そんな言うほどでは……」  希色にとっては間違いなく、いちばん仲が良いのは桃真だ。今まで誰とも友人関係を築いてこなかったのだから、必然的にそうだろう。まさか推しとそうなるなんて思ってもみなかったが、こればっかりは紛れもない事実。  だが桃真にとってはそうとも限らないわけで。誰もに好かれて、色んな人と会話をしている。だからそんなことを言われても、桃真は返答に困ってしまう。そう思ったのだが。 「え、希色は俺と仲良しじゃないの?」  眉をしゅんと下げて、寂しそうな色の瞳に希色を映してくる。そんな顔をさせたいわけではなかった。希色は慌てて桃真の言葉を否定する。 「え……いや! そうだよ! オレにとってはそうだけど……」 「マジ? よかった。俺も仲良いと思ってるから」  桃真の手が希色の頭に伸びてきて、ぽんぽんと撫でられてしまった。桃真の行動に呆気にとられ、希色はぽかんと口を開けてしまう。手は自ずと撫でられた頭に伸びて、噛みしめるようにそこに触れる。  コーヒーショップでの桃真はスマートで、大人の雰囲気を纏っている。だが学校での桃真は年相応の無邪気さが垣間見え、スキンシップが多いところがある。希色の兄もスキンシップが激しいタイプでよく抱きつかれたりしているから、そういったこと自体には慣れてはいるのだが。友人なんて存在が希色には奇跡で、桃真はなんといっても“推し”だ。触れられたり距離が近いなと感じる度に、希色はひとつひとつきっかりとドキドキしてしまう。  とは言え、桃真にとっては普通のことなのかもしれない。それこそ、希色の兄のように。桃真にとっての“仲良しの友人との距離感”がこうなのなら、気にするほうがおかしいのかも。そう思っていたのだが――
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