友だちはドキドキするものらしい

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「こんな土屋、今まで見たことなかったよな」 「な。基本ドライだしな。誰とでも話すけど、いつも受け身だし」 「そうそう。でも望月には自分からぐいぐい行ってるよな」  どうやらそうでもないらしいと、今この場で希色は知ってしまう。  ドライ? 桃真が?  コーヒーショップの桃真を思い返しても、今隣で笑っている桃真を見ても。そのワードは希色にはしっくりこない。優しくて、こんな風に触れてくるほどフレンドリーで――  ひとり首を傾げる希色を置き去りに、佐々木が更に衝撃的な言葉を発する。 「なに、望月は特別な感じ?」 「うん、そう」 「なるほどな」 「そんな感じするわ」 「…………」  なんてことを言うんだと思う暇もなく、問われた本人が肯定してしまった。希色の心臓は、そのひと言に丁寧に跳ねる。  だとしたら、あれだ。友人関係がほぼ初めてだから慣れないだけで、世間一般的に“特別な友だち”とはこういうものなのだ。特別な友だちとはそもそも何なのか、それ自体が希色には分からないけれど。  希色が必死に自分を納得させていると、桃真がどこか満足そうに、川合と佐々木は楽しそうにこちらを見ていることに気づく。 「え……なに? どうしたの?」 「いや、別に。希色と友だちになれて嬉しいなって噛みしめてた」 「そ、そっか……」 「うん」  何気ない平日の、なんてことのない昼の一コマのはずなのに。希色にとってはどうしたって未だにイレギュラーだ。自身に起きていることなのに、どこか客観視している自分もいて、桃真たちと過ごしているこの光景はキラキラと眩しい。  モデルを始めて、まだ少しだが仕事が入るようになって。次第に高校なんてどうでもいいと思うようになった希色に、周りの大人たちはよく言ったものだ。高校だけは出ておいたほうがいい、思いきり楽しんでと。父も母も兄も、それから翠やマネージャーの前田も。それがどこか面白くなかったのに。少しずつ変わり始めている自分に、希色は出逢っている真っ最中だ。  大人たちの言う通り、やめたりしなくてよかったのかもしれない。友だちができたことをきっかけに、学校に来るのが楽しいと思えるなんて。  こんな風になるとは、それこそつい一ヶ月前までは考えもしなかった。 「オ、オレも! その、桃真と友だちになれて、嬉しいよ」 「うん、さんきゅ」
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