一喜一憂

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「うわ、ってなんだよ~。ショック」 「ご、ごめん。だってイケメンが目の前にきて迫力が……」 「え、褒められた?」 「うん、めっちゃ褒めた」 「あは、やった」  機嫌をよくした様子で、翠が抱きついてくる。翠は人懐っこいタイプだ。初対面だろうと誰とでも気さくに話すし、話しやすい空気を作ってくれる。近くを通る雑誌社のスタッフも、今日も仲良いねと当たり前のように声をかけて過ぎていく。 「で? いいことって?」 「えっと、高校で友だち、できた」 「へえ、よかったじゃん。それでそんないい感じなん?」  希色が今までは学校で誰とも関わらずにいたことを、翠はもちろんマネージャーの前田も知っている。だからだろう、翠も喜んでくれたようで、頭を撫でてくれた。 「うん、多分。仲良くなれて嬉しくて。いいことって言われたら、それしかないよ」 「そっか。え~、でも希色にはもう俺がいたじゃん! 俺と仲良くなったのは嬉しくなかったの?」  けれどすぐに、翠の整ったくちびるがツンと尖ってしまう。 「もちろん翠くんと仲良くなれたのだってすごく嬉しかったよ! でも翠くんは友だちじゃなくて、先輩でしょ」 「確かにそうだけどさあ……そっか、友だち、ね。希色〜」  翠は不満げな声を隠そうともせず、それでいてじゃれてくる。それにくすくすと笑いながら水分を摂っていると、翠がスマートフォンのカメラを向けてきた。 「希色、こっち向いて」 「ん、待って、水が」 「そのままでいいじゃん。オフショットって感じで」  希色の肩を組み、翠が頭を寄せてくる。高い位置に構えられた画面をふたりで見上げ、翠がシャッターボタンを押す。 「いい感じに撮れた。ほら」 「ほんとだ」 「あとでインスタ上げるね」  翠はこまめにSNSを更新するタイプで、フォロワーもたくさんいる。希色の写真を載せる時は、決まって事務所の後輩のKEYだと紹介してくれるのだから優しい。 「希色も投稿する?」 「んー、オレはいいや」 「はは、ほんとこういうの苦手なのな」 「いつも見るだけで満足しちゃって。もっと投稿してって前田さんにも言われてるんだけど」  仕事を始めるまでは、本当に閲覧するためだけのアカウントを持っていた。宣伝にもなるからとの事務所からの助言で新しく取得したのだが、まだ3回ほどしか投稿したことはない。希色との写真をアップする際、毎度KEYのアカウントへのリンクも貼ってくれる翠には、ちょっと申し訳なくもあったりする。 「ま、そういうところも希色らしくて俺は好きだけどね」 「あはは、ありがとう」
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