一喜一憂

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 午後を過ぎた頃、希色の撮影は無事に全て終了した。翠と共に控え室に戻り、ひと息つく。 「希色ー、俺コーヒー飲むけど希色も飲む?」 「ううん、水飲むから平気」 「あれ? コーヒー飲むようになったって言ってなかったっけ」 「うん、そうなんだけど、好きなお店があって……」 「お待たせしました! お昼買ってきましたよ!」  翠と話していると、外に出ていた前田が元気よく戻ってきた。手には袋をいくつか提げていて、ひとつひとつ味を説明しながらサンドイッチをテーブルに広げてくれる。 「美味そう! 俺これもらっていい?」 「あ、翠くんは待って!」  翠はこれから隣県に移動しての、屋外での撮影予定が入っている。このままスタジオでの撮影なら見学させてもらうところだが、今日はそうもいかないようだ。  座ったまま食べ始めようとした翠を、前田が急かす。 「翠くんは車で食べてもらおうと思ってたんだよ、そろそろ出なきゃ!」 「ちょっと待って、今インスタ上げてるから」  だが翠はサンドイッチをすでに食べ始めていて、ゆっくりと立ち上がった。片手でスマートフォンを操作しインスタへの投稿を終えて、サンドイッチを持ったままの手でバッグを掴み、希色の頭を撫でてくる。器用なものだ。 「じゃあな希色、気をつけて帰るんだぞ」 「うん」 「送ってあげられなくてごめんね、KEYくん。変な人に着いていったら駄目ですからね」 「子どもじゃないんで大丈夫ですってば」  過保護な先輩とマネージャーを見送って、希色もサンドイッチを完食する。ペットボトルに少し残っていた水を飲みきり、帰る支度をはじめる。
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