一喜一憂

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 桃真に会いたくてここへ来たけれど、今日ばかりは他のスタッフのレジへ誘導されることをつい願ったのだが。運がいいのか悪いのか、桃真のほうのレジへと呼ばれてしまった。うつ向きがちにそちらへと足を向ける。 「いらっしゃいませ」 「……こんにちは」 「店内でお召し上がりでよろしいですか?」 「あ……え、っと」  その言い回しは、いつも店内で休んでいくことを覚えてくれているからこそのものだ。今までだったら、特別な接客のようで喜ぶところだが。今日はテイクアウトしてしまおうかと迷う。桃真にとっては、一刻も早く目の前から消えてほしいのかもしれないから。  そうと決まればと希色は顔を上げる。するとそこには、なぜかしゅんと眉を下げた、どこか気づかわしげな桃真の顔があった。 「お客様、あの、すごくお節介しちゃうんですけど」 「…………? はい」  声を潜め背を屈める桃真につられ、希色もカウンター越しに耳を寄せた。 「もしよかったら、甘いものも一緒にいかがですか」 「……え?」 「急にすみません。もしかしてお疲れなのかな、と思って。甘いものって、疲れ取れませんか? コーヒーともよく合いますよ」  桃真はそう言って、隣にあるショーケースを指差した。その中にはケーキやクッキー、具だくさんのサンドなどが陳列されている。桃真に視線を戻せば、「もちろんご無理なく」と希色が断りやすいようにだろう、ひと言を添えてくれた。  桃真はKEYだと知っている、だから翠と仲がいい自分に会いたくなかった。そう考えたのは勘違いだったのだろうか。桃真の目に自分は疲れているように映ったらしく、なんとか元気づけようとしてくれているのが分かる。その優しさを受け取らない選択肢など、希色にはない。 「っ、あの、それじゃあチョコレートがかかってるドーナツをひとつ、お願いします」 「ほんとに? あ、勧めておいてすみません。無理してないかなと」 「全然です。あの、甘いの大好きなので」 「よかったです。コーヒーはいつものでよろしいですか? 今の時期だと、アイスもおすすめです」 「じゃあ、アイスで。お店でいただきます」 「かしこまりました」
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