君とカラフル 〜憧れの人がオレを推してくれません〜

推しはクラスメイト？

　四月はすぐにやって来た。今日は久しぶりの登校だ。

　まずは一年時の教室に入り、新しいクラスが書かれた名簿をもらった。希色の名前の横には、二年六組と記されている。

　教室内には、歓喜の声や別れを惜しむ声があちこちで上がっている。だが希色には、友人と呼べるような相手はひとりもいない。どのクラスになろうが、誰がクラスメイトになろうが、あるいは離れようが。なんの感慨もない。

　さっそく新しい教室へ向かおうと廊下に出る。階段のほうへ角を曲がると、他の生徒と肩がぶつかってしまった。

「あ、ごめん」

　振り返って謝ったが、ぶつかった相手は眉を顰めるだけで、迷惑そうに去っていった。なんか言えよと多少腹は立つが、その反応も無理はないのだろう。窓ガラスにふと映った自分の姿に、希色はそっとため息をつく。

　女みたいな顔だとからかわれ始めたのは、小学生の半ば頃からだ。クラスの中でいつも目立っていた男子生徒のひとことがきっかけだった。他の子たちも希色を茶化し始めるのは、一瞬のことだった。それからはずっと俯いて過ごしてきた。

　そんな過去とはおさらばしたくて、同じ中学の生徒が誰も行かない高校を選んだ。鼻まで伸ばした前髪で顔を隠しているから、希色の素顔は高校の誰も知らない。女顔だとからかわれることもなければ、人付き合いも皆無だけれど。嫌な思いをするくらいなら、誰とも関わらないほうが何倍もマシだった。

　コンプレックス故にはじめた髪型が、モデルという世界へ踏み出す時に功を奏したというわけだ。これなら気づかれることもない。絶対に、卒業まで隠し通したい。だから避けられる理由はどうであれ、そっとしておいてもらえるのは都合がよかった。

　階段を上がり二年六組の教室に入ると、黒板には席順が書かれていた。希色の席は、窓際の前から4番目のようだ。席に座っている生徒はまだ数人ほど。希色も自分の席に腰を下ろし、ひと息つく。席は五十音順で配置されることがほとんどだから、姓が望月だと窓際になることが多い。いちばん後ろだとよりベストだが、ラッキーだなといつも思う。

　少し窓を開け、新しい空気を入れつつ外を眺める。すると、肩をぽんと叩かれた。思わずびくりと体が跳ねる。

「ここの席の人？　俺、隣なんでよろしく」

　こんなナリをしている自分に、声をかけてくる人は珍しい。最初だけになることは、目に見えているけれど。

　とりあえず会釈だけでもしておこうと顔を上げ、だが希色は思わず目を見張った。目に映る光景が、にわかには信じられなかったからだ。口からはつい「は？」なんて声が零れる。