名作主人公飛び出す

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 警視庁に頭髪がモジャモジャに乱れた目つきが鋭い男が現れた。男はある難事件の解決に協力をしたいと申し出た。  難事件とは、この半年間東京で起きている資産家を狙った連続強盗事件のことだ。決め手となる物証がなく、捜査は行き詰まっていた。ところが、男が捜査に加わると、あっという間に事件は解決した。才能を認めた警視庁では、男を刑事に採用することを決めたが、その申し出は丁寧に断られた。男は少年たちを集めて探偵団を作るらしい。  鋭い目つきの男には断られたけれど、警視庁はよれよれの着物に袴、頭にお釜帽を被った男を刑事に採用した。男はある地方名家の遺産相続に絡む連続殺人事件を見事解決した。その功績を認められたのだ。刑事に採用が決まると、男は嬉しいのかモジャモジャの頭を掻き回したそうだ。    某国立研究所の一室。テーブルを挟んで二人の人物が向き合っている。 「所長。装置は順調に動いてるようですね。小説の主人公を現実世界に誕生させる。そして、彼らの才能を役立ててもらう。なかなか良いプロジェクトだと思ってます」  スーツ姿の男が言った。物腰は柔らかいけれど、ちょっと人を見下すような口調は、官僚の習性だろうか。 「ええ、順調です。メロスをマラソンランナーにしてオリンピックに出せば、金メダルは間違いなしです。」所長と呼ばれた白衣の男が答える。「しかし、ちょっと誤算がありました」 「ああ、明智のことね。彼の推理力を捜査に役立ててもらおうとしたんですがね……」 「断られた、と。彼、変人ですからね。代わりに金田一を誕生させたのが上手くいきました。警視庁で働いてくれるとか」 「ええ、ほっとしました」  官僚は笑顔を作る。 「次は過酷な地でも働いてくれる医師ですね。『赤ひげ』先生を誕生させましょう」  所長が気軽な調子で言ったとき、ポケットの中でスマホが鳴った。 「失礼」と断って、ポケットからスマホを取り出す。 「あっ、所長ですか。装置の調子がおかしいんです」  スマホから焦った声が聞こえてきた。
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