名作主人公飛び出す

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 放課後図書室に行くと、友理が本を数冊両手に抱えて、書架の前に立っていた。返却された本を元の場所に戻しているのだろう。 「ちょっといいかな」  有理に声を掛けた。 「何?」 「課題図書の『吾輩は猫である』のことなんだけど、途中で猫がいなくなったんだ。感想文書けなくなったよ」 「あなたもなの?」 「と言うと?」 「本を借りた人たちからも同じようなこと言われたんだ。主人公が途中で消えちゃうって。それがね、どうも今起こってる事件に関係ありそうなんだ」 「それって、今話題になってる奇妙な事件のこと?」 「うん、テレビでやってたやつ」 「トンネルの壁を槌と鑿を使って彫ってた坊さんが、危うく列車に轢かれかけたやつ、とか。若い男が金閣寺に火を付けようとして捕まったやつ、とかだね。それから、中学校を回っては、そこの教頭を殴ってゆく無鉄砲な奴もいたな」  僕は先日のテレビニュースを思い浮かべた。 「ええ、それよ。その事件の関係者が小説の主人公にそっくりなんだけど……」  某国立研究所の一室。テーブルを挟んで二人の人物が向き合っている。 「所長。無駄な人物を誕生させてしまいましたね。その後、装置の具合はどうですか」  官僚が聞く。 「はい。一時、具合が良くありませんでしたが、もう大丈夫です」  所長が答えた。声に張りがない。 「じゃあ、プロジェクトの再開は可能なんですね」 「ええ、もう始めてます」  そう所長が言ったとき、ポケットの中でスマホが鳴った。 「失礼」と断って、ポケットからスマホを取り出す。 「あっ、所長ですか。そっ、装置が暴走してます!」  スマホから悲痛な叫びが聞こえてきた。
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