名作主人公飛び出す

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 課題図書を読もうとしたときメールが届いた。有理からだった。「ニュースを見て!」と書かれている。  僕は読もうとして手に取った本を机に戻した。課題図書は有理の勧めで芥川龍之介の『河童』にした。少し読んだだけだが、結構面白そうだ。  リビングに行きテレビを点ける。チャンネルを切り替えてニュース番組を選んだ。  橋の上で、観光客が河童たちと記念写真を撮っている映像が流れている。上高地に大勢の河童が現れたのだ。アナウンサーが、河童人気に目を付けた旅行会社が、「河童と過ごす休日」キャンペーンを始めたと言っていた。  僕は唖然としたが、ニュースは奇妙な出来事を次々と伝えてゆく。  近頃珍しい屋台の蕎麦屋に蕎麦を食べに行って、恐ろしい目に遭った人がいた。蕎麦屋の主人の顔には目も鼻も口も無かったのだ。  食品会社の社員が冷蔵倉庫を開けると、雪のように顔の白い女が中にいたので、驚いて腰を抜かした。社員は全治一週間の怪我だというが、凄い美女だったので、もう一度会ってみたいそうだ  山奥のレストランで、客が山猫に食べられそうになった事件があった。警察は山奥のレストランに入るときは、注意するようにと言っている。特に、注文を多く出す店は気を付けた方がいいという。  街の交差点で、蜘蛛の糸を伝って空に上って行く男がいた。何やら芥川龍之介の小説によく似ているが、映画スパイダーマンのロケだという説もある。それから……次から次と小説の主人公たちが本から飛び出して来て、もうパニック状態だ。 「なんだこりゃ」  僕はスマホを手に取り、友理に電話を掛けた。 「はい」と有理。 「ああ、友理か。テレビ見たよ」  足元に猫が寄って来た。僕たちの会話を聞こうとするかのように耳をそばだてる。こいつ、人の言葉が分かるのか?  数日前、家に迷い込んできた野良猫をそのまま飼ってるんだけど、そう言えば、こいつの名はまだ無かったな。
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