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潤は言っていた。
「七夕の夜に、おむすび山のてっぺんに登ると、会いたい人に会えるんだよ」
「会いたい人……って、人間だけなのかな?」
美代が訊くと、潤は「えっ?」という顔をした後、閃き顔になって、
「あぁ、もしかして、ペットとか?」
ちょっと恥ずかしくなった美代は、俯きながら頷いた。
小学生になった日に、父が入学祝いにくれた柴犬。美代が幼い頃から、犬が欲しいと、ずっとせがんでいたのだ。
その愛犬コロが、一か月前、18年の命を全うし、旅立っていった。
「もちろん、会えるさ。その人にとって大切な存在なら」
潤は微笑んだ。未だ心の傷が癒えない美代は、
「行きたい。そのおむすび山。近いの?」
「Y町の外れ」
「あぁ、潤くんの故郷だっけ?」
「うん。俺もね、毎年そこで、お爺ちゃんに会ってるんだ」
潤はそう言って、休憩室の窓から空を見上げた。
「お爺ちゃん子、だったの?」
横顔に訊く。
潤は、この会社の同期。
たまに休憩室で一緒になり、最近よく話すようになっていた。
彼は、空に目を向けたまま、
「うん。木彫り職人でね、俺がまだ小さい頃、いろんな物を作ってくれたんだ」
と、スマホに付けている小さなストラップを見せた。
可愛らしい犬のストラップだった。
「それも、お爺ちゃんが?」
「うん。俺の入社祝いにって。お爺ちゃんの遺作でもあるんだ」
そう言って、掌に載せた木彫りの犬を愛しげに見つめる潤に、
「おむすび山……私も行きたい」
「いいよ。一緒に行こう」
と、笑顔になる潤。
七夕は、もう今週末だった。
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