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それから4日後の土曜日。
美代は、潤と二人で、電車で2時間ほどのY町に来ていた。
山に囲まれた、小さな田舎街だった。
駅の外に出た二人に、梅雨の晴れ間の日差しがジリジリと降り注ぐ。
湿り気を帯びた空気が、肌にまとわり付いてくる。
「今夜はあそこに泊まるといい。予約しておいたから」
潤が、ロータリー沿いの、一見それと分からないぐらいの小さなホテルを指差した。
「えっ……取っておいてくれたの?」
「うん。ここは田舎だから、終電が早いからね」
彼は笑った。
成り行きで泊まってもいいようにと、支度だけはしてきたのだが、ホームに降りた途端、泊まる所があるだろうかと不安になっていたのだ。
「ありがとう」
ホッとする美代に、
「いやいや。それにしても、田舎だろう?」
また笑って周囲を見回す。
確かに、土曜の昼下がりだというのに、人影も殆どない。ひどい蒸し暑さのせいもあるだろうけれど……。
「過疎化が進んでるからね」
彼のひと言が、この街の現状を物語っているようだった。
と、彼が、
「じゃ、俺は実家に顔を出していくから。待合せは、直接おむすび山で」
「えっ?私、おむすび山、行き方分かんないよ」
「大丈夫。ホテルで訊けば案内してくれるから。じゃ、夜7時半におむすび山で」
潤は手を振ると、美代を置いて去ってしまった。
ホテルにチェックインした美代は、そのついでに、フロントでおむすび山のことを訊くと、横の壁に貼られたポスターを指差し、
「こちらですね……」
と簡単に説明してくれた。
(なるほど。ホントにおむすびみたい)
写真に写っているのは、山と言うより、小高い丘のようだった。それに、天の川を挟んだ織姫と彦星のイラスト。
この小さな街の、一つの観光名所として打ち出しているようだった。
「ホテルから送迎バスも出ておりますので、どうぞご利用ください」
フロントの穏やかそうな中年男性が、そう付け加えてくれた。
(それなら、一人でも安心)
美代は、それまで一休みすることにした。
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