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おむすび山には、ホテルから約10分で着いた。
マイクロバスから降りたのは、美代の他に、老夫婦が一組だけ。
暮れ切っていない空では、いくつかの星が瞬き始めている。
芝生にベンチ、それに自販機が3台あるだけの、小さな公園のようになっている。
既にゴザやシートを敷いて、夜空を待っている人の姿もある。10人ほどだろうか。
(潤くんは、どうやって来るのかな?)
近くに駐車場がある。
地元民だから、車で来るのかもしれない。
それまで、ベンチに座って待つことにした。
夕暮れ迫る空を見上げる。
(コロ……会いに来てくれる?)
気が付けば、7時半を過ぎていた。
駐車場の方を振り返る。けど、人が来る気配はない。
そうしているうちに、完全に夜の帳が下りた。
(潤くん、どうしたの?)
コロのことより、潤が来ないことの方が気になってきていた。
スマホを見る。けど、何の着信もない。
「綺麗だぁ……」
「すごーい」
「梅雨なのに、こんな星空、奇跡だね!」
周りでは、歓声とともに夜空を見上げる人たち。
そんな声も耳に入らないまま、美代は潤に電話をかけた。が、呼び出し音が鳴り続けるだけ。
(……来ないの?)
そう思ってスマホの画面を見た時、
「ごめーん。お待たせ」
急に耳元で声がした。
「はっ!」
びっくりして横を向くと、いつの間に来たのか、潤が満面の笑みで立っていた。それだけじゃない。隣には一匹の柴犬。
「えーっ!……コロ?」
その柴犬は、本当にコロそっくり、と言うより、コロそのものに見えた。
「ごめんね、待たせちゃって」
潤がもう一度謝りながら、すまないというように手を合わせた。
「ホントだよ。来ないかと思ったじゃん」
「悪い悪い」
彼は頭を掻きながら、美代の隣に座って、
「でも、会えただろ?」
と、二人の前でお座りしている柴犬に目をやる。
美代が犬に顔を近づけ、
「コロなの?」
と訊くと、犬は、ヘッとピンク色の舌を出して笑顔になる。
「コロ!」
確信した美代は、思い切り抱き締めた。
コロのおなかの温もりが伝わってくる。
耳元で、ハフハフという息づかい。そうかと思ったら、ベラベラと口元を舐めまわしてきた。
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