1/3
前へ
/8ページ
次へ

 おむすび山には、ホテルから約10分で着いた。  マイクロバスから降りたのは、美代の他に、老夫婦が一組だけ。  暮れ切っていない空では、いくつかの星が瞬き始めている。  芝生にベンチ、それに自販機が3台あるだけの、小さな公園のようになっている。  既にゴザやシートを敷いて、夜空を待っている人の姿もある。10人ほどだろうか。 (潤くんは、どうやって来るのかな?)  近くに駐車場がある。  地元民だから、車で来るのかもしれない。  それまで、ベンチに座って待つことにした。  夕暮れ迫る空を見上げる。 (コロ……会いに来てくれる?)  気が付けば、7時半を過ぎていた。  駐車場の方を振り返る。けど、人が来る気配はない。  そうしているうちに、完全に夜の帳が下りた。 (潤くん、どうしたの?)  コロのことより、潤が来ないことの方が気になってきていた。  スマホを見る。けど、何の着信もない。 「綺麗だぁ……」 「すごーい」 「梅雨なのに、こんな星空、奇跡だね!」  周りでは、歓声とともに夜空を見上げる人たち。  そんな声も耳に入らないまま、美代は潤に電話をかけた。が、呼び出し音が鳴り続けるだけ。 (……来ないの?)  そう思ってスマホの画面を見た時、 「ごめーん。お待たせ」  急に耳元で声がした。 「はっ!」  びっくりして横を向くと、いつの間に来たのか、潤が満面の笑みで立っていた。それだけじゃない。隣には一匹の柴犬。 「えーっ!……コロ?」  その柴犬は、本当にコロそっくり、と言うより、コロそのものに見えた。 「ごめんね、待たせちゃって」  潤がもう一度謝りながら、すまないというように手を合わせた。 「ホントだよ。来ないかと思ったじゃん」 「悪い悪い」  彼は頭を掻きながら、美代の隣に座って、 「でも、会えただろ?」  と、二人の前でお座りしている柴犬に目をやる。  美代が犬に顔を近づけ、 「コロなの?」  と訊くと、犬は、ヘッとピンク色の舌を出して笑顔になる。 「コロ!」  確信した美代は、思い切り抱き締めた。  コロのおなかの温もりが伝わってくる。  耳元で、ハフハフという息づかい。そうかと思ったら、ベラベラと口元を舐めまわしてきた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加