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ベンチから立ち上がり、周囲を見回す。
10人ほどいた人影も、今は、数人しかいない。
「潤くん」
大きな声で呼んでみる。返事はない。
「潤くーん」
さらに声を張る。
しかし、「何事?」という目が美代に向けられただけだった。
(そうだ)
急いでスマホを取り出し、起動した時、思わず
「えっ!」
と声を上げた。そこには、
『ごめん。先に帰る』
潤からのメッセージがポップアップされていたのだ。
「……なんでよ」
裏切られたような腹立ち。
ひとり残された侘しさ。
「大丈夫ですか?」
運転手が、苛立つ素振りも見せず、穏やかに訊いてくれた。
「あっ、はい」
「もう少し、ここに居られますか?」
「いえ……乗ります」
美代はそう答えて、「ふぅっ」とひとつ息を吐くと、ベンチに置いておいた荷物を持ち、マイクロバスに乗り込んだ。
ホテルへ向かう車内から、潤にLINEした。
が、いつまで経っても既読にならなかった。
(コロには会えたけど……)
次の日、美代は、モヤモヤを抱えたまま、帰りの電車に乗った。
(どうして、黙って帰っちゃったの?)
流れ去る車窓の景色を、見るでもなく眺めながら、夕べのことを思い出す。
(もっと一緒に、天の川を見ていたかったのに……)
こうなって初めて、潤への淡い想いを意識していた。
流れる景色が、都会に近づいていることを告げている。
潤へのメッセージは、未だ読まれていない。
(なんで……?)
それでもまた明日から、変哲もない日常に戻るのだろうか……。
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