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4
あくる朝。
信じられない報せが美代の耳を打った。
「美代!」
出勤してきたばかりの美代の元に、香奈が血相を変えて駆け寄ってきた。
香奈は、数少ない同期の一人で、親友でもある。
「どうしたの?香奈」
「村川くんが亡くなったって!」
「えっ?」
(村川くんって……潤くん?)
いつも下の名前で呼んでいたから、一瞬、誰のことか分からなかった。
「嘘でしょ?」
訊き返す声が大きく響く。オフィス内の社員の目が、2人に向けられる。
香奈は、口をギュッと結んだまま目を瞑り、首を振った。
「え、なに?いつ?どういうこと?」
パニックになる美代に、
「事故だって。一昨日、車にはねられたって……」
「一昨日?」
(おむすび山で天の川を見た日だ……)
あの夜、潤は『先に帰る』とのメッセージだけを残し、姿を消したのだった。
(じゃあ、あの後……だから、既読にならなかったんだ……)
「美代、大丈夫?」
香奈が窺うように見る。が、頭が真っ白で言葉が出ない。
「ちょっと話そ」
と、休憩室に誘ってくれた。
香奈が買ってくれた温かい紅茶を飲みながら、一昨日の話をした。
黙って聞いていた香奈だったが、聞き終えるや、
「それ、おかしいよ」
眉を顰める。
「おかしい、って?」
「だって、事故に遭ったのは、一昨日の朝だよ」
「え?……一昨日の夜、じゃなくて?」
「ううん、朝」
「え、でも私、一昨日は……」
「だから、おかしいんだって」
そのまま二人は黙り込んでしまった。
(朝、事故に遭った潤と、私は一緒に電車に乗ってY町に行ったの?夜、おむすび山で、コロも一緒に天の川を見たの?)
「美代、もしかして、見えないはずのものを見た、とか?」
冗談なのに真面目な顔の香奈に、
「朝、っていうのは、間違いないの?」
もう一度訊いた。
香奈はゆっくりと頷いてから、
「双子の兄弟とか、いないよね?」
「お姉さんがひとりいるだけだよ」
美代はその日、仕事をする気になれず、早退を許可してもらった。
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