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それから毎年。
美代は、七夕の夜に、おむすび山を訪れるようになった。
公園には相変わらず、数少ない人たち。
梅雨時なのに、なぜか夜になると決まって雲が晴れた。
「さすが、晴れの町Y、って言われるだけのことはあるね」
そんな声が聞こえたが、美代にはそれだけではない気がしていた。
「今年も会えたね」
短い時間だけど、潤は必ず美代に会いに来てくれた。
「クンクン」
隣には、コロも一緒に。
そんな七夕の夜が繰り返され、美代が二十九歳の年。
毎年一緒に現れていたのに、その夜は、なぜかコロ一匹だけだった。
ひとしきりコロと戯れた後で、
「コロ、潤くんは?遅れて来るの?」
すると、それまで笑っていたコロが、困ったように小首を傾げた。
「え?コロ、どうしたの?」
異変を感じた美代が訊く。と、コロは、
「くぅーん」
と哀しげに鳴いて、夜空を見上げる。その時、バッグの中でスマホが鳴った。
(はっ……)
スマホを見た目が点になる。
画面に浮かんでいたのは、潤からの6年越しの返信だったのだ。
『今までありがとう。二十代、楽しかった。もう十分だよ。美代もこれからはいい人見つけて、新たな人生を歩んでほしい』
(えっ……?)
それが無意味だと知りながら、美代は辺りを見回し
「潤くん」
と呼んでみた。しかし、見えるのは、夜空を見上げる10人ほどの人たちだけ。
もう一度、
「潤くん……?」
けど、姿は見えない。
いつの間にか、コロもいなくなっていた。
顔を上げ、天の川を見つめる。
と、その周りで、無数の星が流れるように動き始め、次第に何かが象られていく。
「あぁ……」
そこに現れた二人の姿に、思わず嘆息がもれる。
「潤くん、コロ……」
美代の視線の先で、二人がやさしい笑顔になる。
「こちらこそ、ありがとうね。頑張るよ」
二人に向けて美代はそう言い、微笑みを返した。
(完)
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