1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

 それから毎年。  美代は、七夕の夜に、おむすび山を訪れるようになった。  公園には相変わらず、数少ない人たち。  梅雨時なのに、なぜか夜になると決まって雲が晴れた。 「さすが、晴れの町Y、って言われるだけのことはあるね」  そんな声が聞こえたが、美代にはそれだけではない気がしていた。 「今年も会えたね」  短い時間だけど、潤は必ず美代に会いに来てくれた。 「クンクン」  隣には、コロも一緒に。  そんな七夕の夜が繰り返され、美代が二十九歳の年。  毎年一緒に現れていたのに、その夜は、なぜかコロ一匹だけだった。  ひとしきりコロと戯れた後で、 「コロ、潤くんは?遅れて来るの?」  すると、それまで笑っていたコロが、困ったように小首を傾げた。 「え?コロ、どうしたの?」  異変を感じた美代が訊く。と、コロは、 「くぅーん」  と哀しげに鳴いて、夜空を見上げる。その時、バッグの中でスマホが鳴った。 (はっ……)  スマホを見た目が点になる。  画面に浮かんでいたのは、潤からの6年越しの返信だったのだ。 『今までありがとう。二十代、楽しかった。もう十分だよ。美代もこれからはいい人見つけて、新たな人生を歩んでほしい』 (えっ……?)  それが無意味だと知りながら、美代は辺りを見回し 「潤くん」  と呼んでみた。しかし、見えるのは、夜空を見上げる10人ほどの人たちだけ。  もう一度、 「潤くん……?」  けど、姿は見えない。  いつの間にか、コロもいなくなっていた。  顔を上げ、天の川を見つめる。  と、その周りで、無数の星が流れるように動き始め、次第に何かが象られていく。 「あぁ……」  そこに現れた二人の姿に、思わず嘆息がもれる。 「潤くん、コロ……」  美代の視線の先で、二人がやさしい笑顔になる。 「こちらこそ、ありがとうね。頑張るよ」  二人に向けて美代はそう言い、微笑みを返した。           (完)
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加