want escape for you

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「うーん。制服着ると高校生にしか見えないから不思議よね」  鏡の前に立つ僕を見る美雨の視線はなんだか複雑そうだった。お化け屋敷の隣のコスプレスペースに飛び込むと、美雨は僕をとっととカーテンで仕切られた試着室に押し込み、後から制服を投げ入れてきた。  コスプレスペースは美雨とは別のクラスの出し物で、文字通りコスプレ衣装に着替えて写真を撮ったり、文化祭の歩き回ったりできるというものだった。結構賑わっていたけど、美雨のメイド服はこのスペースに溶け込んでいたし、僕らに関心を向ける人はいないようだった。  高校を卒業して八年くらいたつわけだけど、まだ高校の制服もそれっぽく着られるらしい。ただし、現役で着ていた頃に比べると、どうにも服によそよそしさを感じてしまう。鏡を見ながら制服を微調整する僕の頭に何かが被せられた。  なんで用意してあるかわからない野球帽。途端にコスプレ感が増したけど、帽子を目深にかぶると思った以上に目元が隠れるのはいい具合だ。 「まあ、違和感はあるけどこれなら大丈夫かな。それじゃ、行こっか」 「行くって?」 「レイ兄、まだ来たばっかりでしょ。私も行きたいクラスあるし」  どうやら美雨はこのまま僕に付き合ってくれるらしい。それは嬉しいけど、気になることもある。 「お店の方は大丈夫なの?」  成り行き上といっていいのかわからないけど、今の美雨は自分のクラスの店を抜け出して僕と一緒にいることになる。今頃、美雨のクラスだって困ったことになっているのではないかと心配になる。 「そっちは大丈夫。むしろ頑張れって言われた」  僕が着替えている間にやり取りしていたのか、美雨がちょっと難しい顔をしてスマホをいじっている。 「頑張れって?」 「あー、えっと。こっちのはなし」  まあ、美雨は依然としてクラシカルなメイド服姿だし、そんな美雨が校内を動き回ることで宣伝になるという考えかもしれない。それならばここからは隠れるよりも堂々と文化祭を巡った方がいいのだろうか。あくまで美雨の宣伝が第一だけど、自分が高校の時はあまり味わうことのなかった文化祭を前にして、周りの熱に浮かされたように心が弾んでいく。 「じゃあ、行こっ! まずは一階のクレープ屋さん!」 「いきなり食べ物?」 「もちろん。油断してるとすぐになくなっちゃうんだから!」
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